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対物超過修理費用補償特約とは、事故の相手方の車の修理費用が時価額を超えてしまう場合に、その超えた部分の修理費用を限度額まで補償してくれる特約です。
(相手方に過失が有る場合は、過失割合に応じて減額されます)
えっ!?
「対物賠償保険を無制限に設定しておけば、相手方の車の修理費用は全額補償されるんじゃないの?」
対物超過修理費用補償特約の定義を読んで、このような疑問を持った人も多いと思います。
”無制限”なのですから、このように考えるのは仕方の無い事です。
しかし、対物賠償保険の”無制限”とは、「制限無く補償する」という意味ではなく、「法律上の賠償責任金額を無制限に補償する」という意味なんです。
そして、法律上の賠償責任金額は「時価まで」なんですね。
そのため、対物賠償保険がたとえ無制限であっても、車の時価額を超えた修理費用は補償されません。
なお、時価までしか補償されない理由は、以下の最高裁判決の考え方を根拠としているからです。
中古車が損傷を受けた場合、当該自動車の事故当時における取引価格は、原則として、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古車市場において取得しうるに要する価額によつて定めるべきである
(最高裁昭和49年4月15日判決・民集28巻3号385頁,交民7巻2号275頁)
ちなみに、車両の「時価」については、上記の考え方を原則としつつ、車の仕様や用途などを加味して評価されます。
それらについては、下記記事で詳しく書いていますので、参考にして下さい。
自動車の時価は、よっぽどの希少性が無い限り、10年も経てば購入時の10%程度まで下落してしまいます。
事故の相手車両が古ければ古いほど、「修理費用>時価」となる可能性が高まるんですね(これを経済的全損といいます)。
そんな時に役立つのが「対物超過修理費用補償特約」なのです。
ただ、1つの疑問が解消したところで、新たな疑問を抱いた人も多いはずです。
「賠償責任が時価までなら、そもそもその額を超過した修理費用を補償する対物超過修理費用補償特約は必要なの?」
この疑問への回答は、対物超過修理費用補償特約のメリットに関係してくる事なので、以下の本文で説明したいと思います。
対物超過修理費用補償特約を付けるメリット
対物超過修理費用補償特約を付帯するメリットは2つ有ります。
特に重要なのは2つ目のメリット!
- 被害者を救済する事で精神的苦痛を緩和
- 示談交渉の円滑化
被害者を救済する事で精神的苦痛を緩和
前述したように、修理費用が時価を超えたとしても、加害者の賠償責任は時価までです。
それ以上支払う必要はありません。
そのため、対物超過修理費用補償特約を付帯するメリットなんて無いよね!と思う人もいるでしょう。
しかし、事故の加害者となった時も同じように思えるでしょうか。
交通事故の加害者になった時の事をイメージしてみて下さい。
交通事故を起こした事が無い人は、誰かに怪我を負わせた時の事や友達の物を壊したり、無くしたりした時の事を思い出してみて下さい。
ボロボロになった被害者の車。
痛々しい包帯姿の被害者。
「申し訳ない」「少しでも多く被害者に賠償したい」と思いませんか?いや、きっと思うはずです。
対物超過修理費用補償特約を付帯していれば、被害者に対して法律で定められた金額以上の賠償を行う事ができます。
その結果、被害者は当然喜ぶでしょうし、その姿を見た、又は聞いたあなたは罪悪感が少しは軽減されるはずです。
対物超過修理費用補償特約には「被害者の救済」、それによる「加害者の精神的苦痛の緩和」というメリットが有るんですね。
示談交渉の円滑化
被害者の中には「なぜ俺が被害者なのに、車の修理費用を自己負担しなければならないんだ!」と怒ってしまい、「修理費用を払わないと示談交渉しないぞ!」と言ってくる人がいます。
そして、この揉め事は結構起こります。
そんな時に「対物超過修理費用特約」があれば、保険金から修理費用の超過部分を支払う事が出来るので、被害者の怒りも収まり、示談交渉も進めやすくなるのです。
また、示談が成立していると刑事責任の処分の判断にも好影響を及ぼす可能性が高いです。
人身事故の場合、事故日から早ければ1ヶ月ほどで検察庁から通知が郵送されてきて、そこで刑事処分の判断が行われます。
郵送されてくる通知書には、持参する書類として「示談書(可能なら)」が記載されています。
つまり、検察官は起訴・不起訴又は罰則の軽重の判断材料の1つとして示談書を利用するわけです(あくまで判断材料の1つですよ)。
ケガに関する示談は、基本的に被害者のケガが完治してから行うので検察の聴取に間に合いませんが、物損に関する示談は事故後すぐに損害調査が行われるのでスムーズに進めば間に合います。
しかし、対物超過修理費用補償特約を付帯していなければ、物損の示談について被害者と揉める事も起こり得ます。
こうなると、検察の聴取に示談書を提出できず、刑事責任が重くなってしまう事も・・・。
対物超過修理費用補償特約には、示談交渉を円滑化し、ひいては加害者の刑事責任を軽くする、そんなメリットも有るんですね(刑事責任の軽減はあくまで可能性です)。
なお、物損事故の場合には、刑事責任を問われる事は有りません(参考:物損事故では基本的に点数・罰金は無い)。
対物超過修理費用特約の補償例
では、対物超過修理費用補償特約を付帯した場合に、どのような補償が行われるのかを具体例を交えて紹介していきますね。
例えば、あなたの過失割合が100%の事故を起こしたとします。
相手方の車の時価は20万円。
修理費用が50万円かかったとしましょう。
この時、対物賠償保険から支払われる保険金は、時価額の20万円だけです。
修理費用と時価の差額「30万円」については保険金がおりません。
法律上、賠償責任は「時価額まで」となっているので、超過額である30万円の支払義務はあなたには有りません。
しかし、「対物超過修理費用補償特約」に入っていれば、この超過額30万円を補償してくれます。
冒頭でも書きましたが、相手方に過失が有る場合には、その分減額されますので、必ず対物超過特約の保険金が満額支払われる訳では有りません。
相手方に過失割合が有るときの計算イメージは下記イメージ図参照。
(画像出典:東京海上日動)
各保険会社の補償限度額や適用条件
現在、ほとんどの会社で「対物超過修理費用特約」を付帯することが出来ます。
そして、ほとんどの保険会社で補償限度額は「50万円」となっています。
チューリッヒは50万円もしくは無制限のどちらかから選択できます。
また、適用条件として「事故を起こした日から6ヶ月以内に実際に車を修理すること」という条件が有ります。
修理をするのが遅れると、保険金がおりません。
保険会社が相手方に伝えていると思いますが、念の為、相手に伝えておきましょう。
なお、被害者が車を修理しない場合には、対物超過修理費用補償特約は適用されません。
損保ジャパン日本興亜では、事故日から1年以内に修理すればOKとなっています。
対物超過修理費用補償特約を付帯する必要性は有るのか?
最初に書いたとおり、加害者に支払義務が有るのは「車の時価額」までです。
時価額を超えた修理費用を支払う法的な義務は有りません。
そのため、「わざわざ保険料を払ってまで、法的責任の無い部分に対しての補償を考える必要が有るのか!?」と考える人も多いようです。
しかし、法的責任が無いとはいえ、被害者側の気持ちを考えれば、支払って上げた方が良いのは間違い有りません。
対物超過修理費用特約のメリットでも紹介したように、加害者側の罪悪感の軽減にも繋がります。
また、「示談交渉の円滑化」及び「刑事責任への好影響」を考えれば、やはり必要な特約と言えるでしょう。
そして、このようなメリットが有る特約が、年間数百円程度で付帯出来るのです(例えば、セゾン自動車火災保険なら年間380円 *1)。少額の負担で、わだかまりなく交渉を終えられるとすれば、安い買い物だと思いませんか?
*1 8等級・ブルー免許などの条件で見積もりした場合です。
見積条件によって、保険料が異なる点には注意して下さい。
逆に、「俺に法的責任は無いから絶対払わない。相手の気持ちなんてどうでもいい。刑事責任が軽くならなくても大丈夫。」と考えられる人なら付ける必要は有りません。
ちなみに、以下の保険会社では対物超過修理費用特約が自動付帯となっています。
それだけ、ニーズが高く重要な特約だと考えているんでしょうね。
- 東京海上日動
- ソニー損保
- AIU損害保険
- セコム損害保険
- JA共済
- マイカー共済
まとめ
対物超過修理費用補償特約は、事故の相手車両の修理費用が時価を超過した場合に、超過分の修理費用を限度額まで補償する特約です。
法律上の賠償責任の範囲は「時価」までなので、合理的に考えれば不要な特約と言えます。
しかし、対物超過修理費用特約には「示談交渉を円滑化」するメリットが有り、迅速な事故解決に役立ちます。
被害者が修理費用を自己負担するとなると、揉める原因になる事が多いからです。
被害者の立場で考えれば「なんでやねん!」と言いたくなりますよね。
加害者としても、早期に事故解決した方が気持ちはラクになるものです。
そのため、法律の枠を超えて、対物超過修理費用特約の付帯を検討してみて下さい。
なお、仮にあなたが被害者になった時は対物超過修理費用補償特約で救われる立場になります。
この特約を付帯するかどうかは置いといて、「こんな特約が有るんだ」という事は頭の片隅に置いておきましょうね。
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