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「MT車(マニュアル)」と「AT車(オートマ)」は、様々な観点から比較される事が多いです。
たとえば、事故率や運転免許を取得する難易度、値段、運転の操作性、販売台数などなど。
その中でも、今回注目するのは、両者の「事故率の違い」です。
MT車(マニュアル)とAT車(オートマ)では、どちらの事故率が高いと思いますか?
実は、AT車の方が事故率が高いんです。
それも結構大きな差が有るんですね。
意外だったのではないでしょうか。
それでは、MT車とAT車の事故率について詳しく見ていきましょう。
MT車(マニュアル)とAT車(オートマ)の事故率
鳥取環境大学の鷲野翔一教授(当時)によると、「MT車とAT車の事故率」は以下のようなグラフとなります(参考:「ドライバ心理と安全運転」)。
平成11年のデータに着目すると、MT車の事故率は100台当たり約1.25件となっているので、単純に約1.25%と言えます。
一方、AT車の事故率は同様に計算すると約2%となります。
この事から、AT車の事故率はMT車よりおよそ2倍高い事が分かります。
次に事故の種類別のデータについても見てみましょう(おそらく車100台当たりの事故件数を表しています)。
注目して欲しいのは、事故件数が突出している5つのデータです。
追突・出会い頭衝突・右左折時の衝突では、さきほどのデータと同じく、AT車の事故率がMT車より約2倍高くなっています。
一方、正面衝突においては、MT車の事故率がやや低いものの、ほぼ同じ数値となっています。
この事から、一旦停止又は減速が必要な状況ではMT車の事故率がグッと低くなる事が分かります。
また、直進走行時には両者で事故率に差が無い事も分かります。
では、なぜMT車とAT車でこれだけ事故率に違いが出るのでしょうか。
MT車の事故率が低い理由
MT車の事故率が低い理由は以下の2つです。
- 1.操作が難しい為、運転に集中するから
- 2.ペダルの踏み間違いによる誤発進事故が起こりにくいから
なお、構造上、MT車の方がエンジンブレーキの効きが良い、というのも事故率が低い理由として挙げられます。
■ 1.操作が難しい為、運転に集中する
MT車の運転席の足元には、3つのペダル「アクセル・ブレーキ・クラッチ」が有ります。
アクセルとブレーキしか無いAT車との大きな違いです。
また、シフトレバーもAT車のそれとは違います(下記画像。車種によって微妙に違います)。
ちなみに、MT車のシフトレバーには「P(パーキング)」や「D(ドライブ)」はありません。
駐車する時は、基本的に「N(ニュートラル、上記画像の”3速”と”4速”の真ん中)」に入れておきます。
道路の勾配や気候によっては、1速又はR(リバース)に入れて駐車する事もあります。
そして、「MT車の運転操作が難しい」とされる所以は、このクラッチとシフトの操作にあります。
まず発進時の操作手順を見てみましょう。
- ① 左足でクラッチペダルを踏み込んだ状態でギヤを1速に入れる
- ② 少しずつクラッチペダルから足を離し、エンジンの回転数を下げていく(半クラと言います)
- ③ エンジンの回転数に合わせて、右足でアクセルを踏み込んでいく(少しずつ前進します)
- ④ 左足を完全にクラッチペダルから離し、アクセルをもう少し踏み込んで加速していく
②と③で左足をクラッチから急に離してしまったり、アクセルの踏み込みが過度に弱すぎたりすると、エンジンが停止、いわゆるエンストを起こしてしまいます。
MT車は発進するだけでこのような操作が必要になります。
また、発進後も加速・減速時にエンジンの回転数に合わせて、クラッチを踏み、シフト操作をしていかなければなりません(例えば、加速時は1速⇒2速⇒3速・・・といった感じです)。
つまり、運転中は基本的に以下のように両手・両足を使う事になります。
★国産車(右ハンドル)の場合★
●右手・・・ハンドル・ウィンカーの操作
●左手・・・ハンドル・シフトレバーの操作
●右足・・・アクセル・ブレーキの操作
●左足・・・クラッチの操作
このようなMT車の運転操作と比べると、AT車の運転は非常に簡単ですよね。
発進時はアクセルを踏むだけで良いのですから。
また、走行中も左足を使う事はありません。
左手を使わない人もいるのではないでしょうか。
さて、話を事故率に戻しますね。
ここまで紹介したように、MT車の運転操作の難易度を鑑みれば、MT車の事故率の方が高くなりそうですよね。
しかし、実際はMT車の事故率はAT車よりも低くなっています。
その理由は、運転操作の難しさが、ドライバーの運転への集中力を高める事に繋がっているからです。
日常生活や仕事においても、難しい作業をする時って集中して取り組みますよね。
それと同じです。
また、両手がハンドル及びシフトレバーの操作で塞がる事が多いので、運転中にスマホを弄れない事も事故率が低い1つの理由と言えるでしょう。
注:運転中のスマホ・携帯の操作は、MT・ATに関係なく交通違反です。
逆に、AT車は運転操作が簡単なので、MT車ほど運転に集中する必要がありません。
結果、意識が散漫になり、脇見運転やスマホ操作などが原因で事故を起こしてしまうんです。
余裕が有り過ぎるのも良くないって事ですね。
ちなみに、警察庁によると、2019年に起きた事故において、脇見や考え事をしていたことなどによる、発見の遅れ(構成率約83.4パーセント)が最も多くなっています。。
■ 2.ペダルの踏み間違いによる誤発進事故が起こりにくい
最近、ニュースで頻繁に耳にするのが「ペダルの踏み間違いが原因で発生した事故」です。
店舗などに車が突っ込んでいる映像を見た事がありますよね。
踏み間違える理由は色々有ると思いますが、やはり「焦り」「勘違い」が多いのではないでしょうか。
例えば、以下のような場合です。
- コインパーキングなどの料金を支払う時にブレーキから足が離れてしまい、クリープ現象によって車が前に進み、焦ってブレーキとアクセルを踏み間違えてしまう
- バックで駐車中、後ろを向いた時にアクセルとブレーキの位置を勘違いして踏み間違えてしまう(右・左の感覚が分からなくなるため)
このようなペダルの踏み間違いによる事故は、甚大な被害をもたらします。
なぜなら、ドライバーはブレーキを踏んているつもりでアクセルを踏み込むからです。
そして、ブレーキが効かない事に焦って、余計に強くアクセルを踏み込んでしまうんですね。
で、ペダルの踏み間違いによる事故は、MT車では起こりにくく、基本的にAT車特有の事故なんです。
さきほど紹介したように、MT車は発進する時にクラッチ操作が必要です。
クラッチを踏んだ状態でペダルを踏み間違えてアクセルを強く踏んでも、エンジンの回転数が上がるだけ、つまり”ふかす”だけで、車が誤発進する事はありません。
また、クラッチから足が離れてしまうと、エンストを起こしてしまいます。
そしてもう1つ、MT車にはクリープ現象は発生しません。
クリープ現象とは、シフトレンジが「P」「N」以外の時にブレーキから足を離すと、アクセルを踏まなくても車が勝手に前に進む現象です。
つまりMT車では、さきほどの事例のように、クリープ現象による焦りでペダルを踏み間違える事は起こりえないのです。
これがMT車の事故率が低いもう1つの理由なんですね。
なお、ペダルの踏み間違いによる事故は、高齢者がよく起こす事故なんですね。
認識力・判断力の衰えによって、ペダルを踏み間違えてしまうのでしょう。
「MT車・AT車の事故率」と各販売台数・免許取得者・性別との関係は有るのか?
ここまでは「MT車」と「AT車」に着目して、事故率の違い及びその理由について紹介してきました。
ここからは車の操作性・機能性以外の要素に着目して、MT車とAT車の事故率の違いについて考察してみたいと思います。
MT車・AT車の販売台数との関係
まずMT車とAT車のそれぞれの販売台数について見てみましょう(参考:現代ビジネス‐自販連調べ)。
西暦 | MT比率 | AT比率 | 乗用車販売台数 |
---|---|---|---|
1985 | 51.2% | 48.8% | 2,892,894 |
1990 | 27.5% | 72.5% | 4,085,005 |
1995 | 19.2% | 80.8% | 3,181,286 |
2000 | 8.8% | 91.2% | 2,710,840 |
2005 | 3.4% | 96.6% | 3,096,683 |
2010 | 1.7% | 98.3% | 2,714,319 |
2011 | 1.5% | 98.5% | 2,125,329 |
2011年のMT車の販売台数の比率は、なんと1.5%。
1985年の50%から急落している事には驚きますね。
つまり、今現在販売されている車のほぼすべてがAT車であり、当然走行している車もAT車ばかりという事になります。
そう考えると、AT車の事故率が高いのは当たり前のように感じますよね。
しかし、冒頭で紹介した事故率のデータは「100台当たりの事故率」です。
そのため、販売台数に大きな違いが有るものの、MT車とAT車の事故率に影響を与えるデータではないと思います。
ただし、これだけ販売台数が少ないMT車に乗る人は「真の車好き」と言えます。
運転操作が難しいMT車に敢えて乗るわけですから運転も上手いはずです。
MT車の事故率が低いのは、運転技術の高い人が乗っているからなのかもしれませんね。
もちろん、自信が仇となって事故を起こす事もあると思いますが・・・。
AT限定免許との関係
運転免許の種類には、AT車しか運転出来ない「AT限定免許」があります。
”限定”が付されていなかったらMT車も運転可能です(ここではMT免許とします)。
AT車の事故率が高い理由には、このAT限定免許が関係しているのでは?と考える人もいるかもしれません。
確かに、AT限定免許を取得するのは、MT免許と比べると簡単です。
技能教習が約3時間少ないですし、なによりAT車の運転は簡単だからです。
しかし、AT限定免許の人だけがAT車で事故を起こしているわけではありません。
さきほどのMT車・AT車の販売台数の状況を見ても分かるように、ほとんどの車がAT車です。
つまり、MT免許の人も結局AT車を運転しているわけです。
当然事故も起こします。
そのため、AT限定免許の人がいるからAT車の事故率が高い、とは言い切れないんです。
ただし、AT限定免許の登場によって、何度試験を受けてもMT免許を取れなかった人が免許を取得できるようになったと言われていますので、AT限定免許の人が多少なりともAT車の事故率上昇に影響しているかもしれませんね。
■MT免許及びAT限定免許の合格率(令和元年警察庁「運転免許統計」)
- MT免許・・・約71.5%
- AT限定免許・・・約70.2%
注:MT免許・AT限定免許で学科試験の内容に違いはありません。
なお、最初にAT限定免許を取得しても、その後限定解除審査を受ければ、MT免許にする事が可能です。
AT限定免許の取得者数
ちなみに、AT限定免許を取得する人は年々増加中です。
以下の表は普通免許におけるMT及びAT限定免許を取得した人数を表したデータです(参考:警察庁「運転免許統計」)。
MT免許 | AT限定免許 | |
---|---|---|
平成28年 | 547,720人 | 737,800人 |
平成27年 | 550,934人 | 726,216人 |
平成26年 | 562,354人 | 705,564人 |
平成25年 | 574,208人 | 695,199人 |
平成24年 | 581,993人 | 668,055人 |
MT車・AT車の販売台数の比率と比較すると、MT免許取得者の割合はかなり多いです。
いまだに「男がAT限定免許を取得するのは恥ずかしい」という風潮が残っているのかもしれませんね。
AT限定免許の男女別の割合
もう1つ参考データとして、男女別のMT免許・AT限定免許の取得者も紹介しておきます。
女性の多くがAT限定免許を取得している事が分かりますね。
データの種類 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
新規運転免許取得者 | 597,830人 | 553,604人 |
MT免許の比率 | 64.3% | 15.3% |
AT限定免許の比率 | 35.7% | 84.7% |
MT免許保有者 (推計) | 384,405人 | 84,701人 |
AT限定免許保有者 (推計) | 213,425人 | 468,903人 |
■各データの参照先
- 新規運転免許取得者⇒警察庁「運転免許統計(令和元年)」
- MT免許及びAT限定免許の比率⇒ソニー損保「新成人のカーライフ意識調査」
- MT免許及びAT限定免許の保有数⇒上記2つのデータから計算
運転手の性別(男・女)との関係
「男性・女性のMT免許及びAT限定免許の保有者数」の話が出てきたので、「運転手の性別(男・女)」と「MT・ATの事故率」との関係についても見ていきたいと思います。
まずはこちらの男女別の交通事故件数の経年変化を表したデータをご覧ください。
(出典:交通事故総合分析センター- イタルダインフォメーション2006年1月発行版)
このグラフは、平成7年に発生した男女それぞれの事故件数を100とし、平成16年までの経年変化を表したものです。
これによると、女性の事故件数が男性のそれよりも大幅に増加している事が分かります。
ただし、免許保有者1万人当たりの割合でみると、結果が逆転します。
それを表したグラフが下に表示しているものです。
ちなみに、令和元年時点の免許保有者数は、男性が約4,500万人、女性が約3,700万人です(参考:警察庁「運転免許統計」)。
(出典:交通事故総合分析センター- イタルダインフォメーション2006年1月発行版)
これを見ると、男性の方が事故率が高くなっていますね。
では、比較する角度を変えて「走行距離当たり」で男女の事故率を比較すると、女性の方が高くなります。
男性は通勤や仕事で車を運転する機会が多いので、女性よりも2倍~3倍ほど走行距離が長くなり、走行距離当たりの事故率が低くなるんですね。
走行距離に関するデータは日産の記事(3女性ドライバーの交通事故)をお読みください。
一方、死亡事故を起こすのは男性の方が多い、というデータもあります。
それを表したのが以下の表です。
自動車運転中に死亡した人数は、男性が984人、女性が338人となっており、割合計算をするまでもなく圧倒的に男性の方が多い状況です。
女性よりも男性の方が危険な運転をする傾向にある事が分かります。
さて、ここまでいくつかの角度から男女の事故率を見てきましたが、データによって男女の事故率の高低が変わるので、結論を出す事は正直難しい・・・。
そのため、MT車とAT車の事故率の違いに性別が関係しているのか?という点においても何とも言えないところです。
ただし、さきほど紹介したように、女性の8割超がAT限定免許を取得しているわけですから、MT車を運転しているのはほぼ男性と言えます。
なので、MT車とAT車の事故率の違いに性別が全く影響していない、と言い切れないのも確かです。
【参考】ヨーロッパではMT車が人気!その理由は?
さきほど紹介したように、日本ではMT車の販売台数に占める割合は約1%です。
AT車が広く普及している状況です。
では、ヨーロッパに目を向けてみると、AT車はそこまで人気がなく、MT車に人気が集まっています。
以下のグラフは、主なヨーロッパの国々のAT車の普及率を表したものです。
(出典:ICCT国際クリーン交通委員会)
一番AT車が普及しているドイツでも約23%ほど。
フランスでは10%にも達していません。
それだけMT車のシェアが高くなっているわけです。
では、なぜヨーロッパでこれだけMT車の人気が高くなっているのでしょうか。
その理由を列挙すると、以下の通りです。
- MT車の方が車体価格が安くなっている事が多い
- 加速などの操作を楽しみながら車を運転したい人が多い
- 渋滞がそこまで発生しない
- AT車よりMT車の方が燃費が良い、と勘違いしている 等
MT車の方がAT車より燃費が優れていたのは昔の話です。
現代でも言える事ですが、ドライバー自身がエンジンの回転数をコントロール出来たからです。
しかし、現在はAT車でもフロアMTモード(MT車のようにシフトをアップ・ダウンできるAT車)が付いていたり、ギヤ比を最適にコントロールするCVT(無断変速機)が搭載されているので、AT車の方が燃費が良くなっています。
ヨーロッパでは、このような技術の進歩を知らず、いまだにMT車の方が燃費が良いと信じて、MT車を購入している人が少なからずいるのかもしれません。
ただ上のグラフを見ても分かるように、徐々にAT車の普及率は上昇しています。
そのため、将来的には日本ほどではなくても、ヨーロッパでもAT車の普及率が高くなっていくでしょう。
まとめ~事故を減らすにはMT車がカギになるのか~
MT車の事故率はAT車の事故率のおよそ2分の1、という事が分かりましたね。
そのため、以下のような意見がチラホラと見受けられます。
「交通事故が目立つ高齢者はMT車を運転すべきだ。」
確かに、MT車とAT車の事故率の違いを考えれば、高齢者はMT車を運転すべきなのかもしれません。
しかし、それで果たして高齢ドライバーによる事故が減るのか、という点にはいささか疑問を感じます。
というのも今回紹介したように、MT車の運転操作はAT車よりもはるかに難しいです。
そんな車を判断能力や運動能力などが衰えた高齢者が安全に運転できるのでしょうか・・・。
もちろんMT車であれば誤発進による事故を防ぐ事は可能になりますが。
それよりも自動ブレーキが搭載された車に乗り換えたり、そもそも運転免許証を返納したり、などの対策の方が効果が有るように思えます。
みなさんはどう思いますか?
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