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自動車保険の等級の引継ぎには「保険会社間の等級引継ぎ」と「家族間での等級引継ぎ」の2種類が有ります。
いずれの場合も、今まで積み上げてきた等級を「次の契約」又は「家族の誰か」に引き継ぐ事が出来るので、保険料を大幅に節約する事ができます。
“自動車保険の等級を引き継がない”というのは、非常に勿体無いのでなるべく活用していきたいところです。
ただ、自動車保険の等級を「他社へ引き継ぐ場合」でも「家族間で引き継ぐ場合」でも、期間や条件などの細かい注意点があります。
また等級を引き継げない場合も有ります。
そこで今回は、自動車保険の等級引継ぎについて「保険会社間」と「家族間」に場合分けして気になるポイントを紹介していきたいと思います。
「保険会社間」での自動車保険の等級の引継ぎ(他社への乗り換え)
まずは「保険会社間」での等級の引継ぎについて紹介します。
事例としては、現在契約している自動車保険から他社に変更・乗り換えする場合が該当します。
冒頭でも書いたように、他社へ乗り換える場合でも等級の引継ぎが可能です。
他社へ乗り換える場合の等級の進み方は以下の2パターンです。
- 自動車保険の満期と同時に乗り換える場合・・・現在の等級から1つ進んだ等級を引き継げる(例:現在の契約15等級⇒他社での契約16等級)
- 契約途中に解約して乗り換える場合・・・現在の等級を引き継げる(例:現在の契約15等級⇒他社での契約15等級)
満期と同時に乗り換える or 契約期間の途中で乗り換えるで等級の進み方が少し変わる点に注目ですね。
以下では、等級を引き継ぐための条件や時期、手続きなどの注意点をまとめていきます。
損保・共済別の等級引継ぎの可否
重要なのは「どこの自動車保険(共済)からどこの自動車保険(共済)」に乗り換えるのか、という点です。
これについては、大別すると以下の3パターンに別れます。
- ① 損保から損保
- ② 共済から損保
- ③ 損保から共済
あなたはどのパターンに該当しますか?もし「② 共済から損保」なら、等級が引き継げない事もあるので要チェックです。
【① 損保から損保】等級の引継ぎが可能
損保間での自動車保険の乗り換えとは、たとえば、東京海上日動からソニー損保に契約先を変更する場合などです。
このケースでは、基本的に自動車保険間で等級の引継ぎが可能です。
もちろん、現契約と新契約がダイレクト型及び代理店型のどちらであっても問題ありません。
現契約の 自動車保険 | 新契約の 自動車保険 | 等級引継の可否 |
---|---|---|
ダイレクト型 | 代理店型 | 可能 |
代理店型 | ダイレクト型 | 可能 |
ダイレクト型 | ダイレクト型 | 可能 |
代理店型 | 代理店型 | 可能 |
そのため、たとえば、現在の等級が15等級なら、変更した自動車保険での等級は16等級になります(満期時に変更かつ無事故だった場合)。
【② 共済から損保】一部の共済で等級の引継ぎが不可能
共済から損保への乗り換えとは、たとえば、JA共済からチューリッヒに契約先を変更する場合などです。
このケースでは、一部の共済で自動車保険への等級の引継ぎが不可能な事が有るので注意が必要です。
“一部の共済”とは、「教職員共済」や「トラック共済」などです。
多くの保険会社で等級引継不可とされています。
なお、JA共済、全労済・農協などの自動車共済はほぼ全ての損保で等級の引継が可能とされています(要確認)。
ただし、全ての損保で等級引継不可となっているわけではありません(例:三井住友海上では教職員共済はOK)。
また、上記2つ以外の共済でも等級引継不可となっている場合もあります。
この点については保険会社によって取扱が異なるので、契約しようとしている保険会社や加入している共済に等級引継の可否について確認するようにしてください。
【③ 損保から共済】等級の引継ぎが可能~特殊なケース有り~
損保から共済への乗り換えとは、さきほどと逆のパターンです。
このケースでは、ほとんどの共済で自動車保険の等級の引継ぎが可能です。
さきほどの「共済から損保」のケースで、等級引継不可となっていた教職員共済でも引継ぎが可能となっています。
なお、トラック共済では等級の引継ぎが行われませんが、等級に応じた掛け金が計算されます。
注意して欲しいのは、上記のように一部の共済で「損保からの乗り換え時」に等級引継ぎのハードルが低くなっていて、「損保への乗り換え時」にハードルが高くなっている点です。
そのため、共済への加入については、将来の契約先の変更による等級引継の事も考慮して検討するようにしてください。
(等級が引き継がれないと損保に切り替えたいのに切り替えられない!という事態が発生しています。)
自動車保険の等級引継ぎ可能期間~満期日又は解約日から8日以内~
等級を引き継げるのは、原則「満期日又は解約日から8日以内(起算点は満期日又は解約日)」に次の契約が開始される場合だけです(*)。
* 他社に乗り換える時に1等級進んだ状態で引継ぎたいのであれば満期日から8日以内に手続きを行わなければならないし、等級はそのままでも良いからとにかく保険会社を変更したい場合には解約日から8日以内に新しい保険会社と契約しなければならないという意味。
等級の引継が可能となっている自動車保険間の契約変更であっても、上記期間経過後であれば、等級は引き継がれず6等級からのスタートとなってしまいます。
補償期間に穴を開けないためにも、「満期日又は解約日から8日以内」という基準に関わらず“満期日前又は解約日前に契約手続きを行っておくのが原則!”と認識しておきましょう。
なお、1等級~5等級のいわゆるデメリット等級は、満期日から13ヶ月が経過しないとリセットされません。
デメリット等級を引継ぎたくないという人は、以下の記事をご覧ください。
他社への乗り換え時に等級を引継ぐための必要な手続き
自動車保険の等級を引き継ぐため”だけ”の手続きは基本的にありません。
また、特別に必要な書類もありません。
そのため、通常の加入手続き(見積・申込・契約)を踏めば、基本的に等級は引き継がれます。
ただし、他社への乗り換えとなるので、現在契約している自動車保険に「継続更新しない事」を連絡しておきましょう(連絡不要としている保険会社もありますが、契約者のマナーとして連絡するようにしてくださいね)。
契約期間の途中に解約して乗り換える場合の注意点
中途解約をしても解約日から8日以内に次の契約が開始されるように手続きを踏めば、現在の等級を引き継ぐ事ができます。
ただし、中途解約する場合には、等級の引継ぎ以外にも以下のような注意すべきポイントがあります。
- 等級の進行が遅れる
- 保険料を一括払いしている場合には解約返戻金が目減りする
自動車保険の等級は、事故を起こさなければ、1年に1つ進みます。
しかし、中途解約をすると、等級が進行するのは新契約が満了した時点まで先延ばしになってしまいます。
もし、現在の契約がもう少しで満期を迎えるのであれば、途中解約ではなく満期日に他社へ乗り換えた方が等級も進み、その分保険料がお得になる事が多いです。
金銭的にどちらがお得なのか、しっかりと考えてから切り替えて下さい。
もう1つの注意点が「解約返戻金」です。
ほとんどの保険会社は、一括払いに対する解約返戻金を短期率という特殊な数値を用いて計算しています。
この短期率計算では、どの時点で解約しても解約返戻金が残りの契約期間に応じた月割計算よりも少なくなってしまうんです。
自動車保険の中途解約を検討している人は、この2つの注意点も考慮した上で判断するようにしてくださいね。
(参考:自動車の任意保険を契約途中で解約するのは得か損か?)
「家族間」での自動車保険の等級の引継ぎ
続いて紹介するのは「家族間」での自動車保険の等級の引継ぎについてです。
親子間や夫婦間で自動車保険の等級を引き継ぎたい!と考えている人が多いのではないでしょうか。
そこで家族間の等級引継ぎについて、条件や手続きなどを見ていきましょう。
等級引継ぎ時の条件は「同居の家族」~別居は引継ぎできない~
「誰に」対して等級の引継ぎが可能なのか・・・ここが重要なポイントです。
それを簡潔にまとめると、以下の人達となります。
- ①記名被保険者の配偶者(内縁の妻含む)
- ②記名被保険者または配偶者の同居の親族
配偶者以外の親族は「同居」が絶対条件となっています。
そのため、別居の子は既婚・未婚を問わず対象外です。
基本的に「同居」の条件は、当該自動車保険の契約時点ではなく、引継ぎを行う時点で満たしておく必要があります。
なので、結婚・就職などで家を出てしまう前に全ての手続きを終わらせておきましょう。
等級を引き継ぐ際の手続き・手順
家族間での自動車保険の等級の引継手続きを以下の2つケースに分けて見ていきたいと思います。
- ケースA:もう車に乗らなくなった親の等級を子供が引き継ぐケース
- ケースB:子供の自動車保険の等級と親の自動車保険の等級を入れ替えるケース
なお、保険会社のオペレーターや代理店の担当者に、その旨を伝えれば必要な手続きを進めていってくれます。
ケースA:もう車に乗らなくなった親の等級を子供が引き継ぐケース
このケースでは、記名被保険者の変更手続きを行えば、等級は親から子へ引き継がれます。
一般的にこのケースでは、自動車保険の契約者も親から子へ変更すると思うので、まとめて行う事になると思います。
必要書類は契約している保険会社などによって変わってくるので、電話した際に確認しておきましょう。
ケースB:子供の自動車保険の等級と親の自動車保険の等級を入れ替えるケース
このケースでは、「車両入替」と「名義変更」の手続きを行う事によって、親子間で等級を入れ替える事が出来ます。
手順は概ね以下のような感じです。
- ①保険会社担当者に等級を引き継ぎたい旨を伝える
- ②「子供の新車」と「親の車両」の車両入替を実施
- ③「子供」と「父親」の各自動車保険の名義を変更
このケースでも「娘用に購入した車の名義が誰なのか?保険契約の記名被保険者は誰か?契約者は誰か?」などにより、手続きや提出書類が変わることが有りますので、処理を始める前に保険会社の担当者に確認しておきましょう。
自動車保険の等級引継ぎで実際どれくらい保険料がお得になるのか?
ここでは「家族間」で引継ぎを利用するとどれくらい保険料がお得になるのか?
「結婚する子供に等級を譲るケース」を例にとって見て行きましょう。
■前提
もともと「父(45歳)・母・娘(20歳)」の3人家族。
娘が結婚して別居する事になったので、父親の等級(20等級)を娘(7等級)に移した。
父親の車両及び等級引継ぎ前の自動車保険の主な内容は以下の通りです。
車種:トヨタプリウス / 型式:ZVW50 / 初度登録年月:平成28年3月 / 走行距離:5,000km~10,000km以下 / 車両保険:有り / 年齢:47歳 /免許の色:ゴールド / 使用目的:通勤・通学 / 住所地:東京 / 運転車限定特約:配偶者限定 / 年齢条件:30歳以上補償 / 契約している保険会社:イーデザイン損保
娘の車両及び等級引継ぎ前の自動車保険の主な内容は以下の通りです。
車種:ダイハツムーブ / 型式:LA160S / 初度登録年月:平成29年5月 / 走行距離:9,000km以下 / 車両保険:有り / 年齢:20歳 /免許の色:ブルー / 使用目的:日常レジャー / 住所地:東京 / 運転車限定特約:本人限定 / 年齢条件:無し(全年齢補償) / 契約している保険会社:ソニー損保
このような状況で「等級を引き継いだ場合」と「等級を引き継がなかった場合」の保険料を比較してみましょう。
上記のように、娘の保険料は親の等級を引き継ぐと、大幅に安くなる事が分かります。
今回の事例の場合では、保険料差額は64,820円です。
家族全体でも61,170円の保険料節約になります。
全体の保険料節約額が少し減っているのは、父親の保険料が以前より割高になっているためです。
娘の等級を引き継ぐのでこれは仕方の無い事です。
ただ、家族トータルでは保険料を大幅に節約できるので、十二分に検討する価値が有ると思います。
注:今回の事例では、等級のみを変更して等級引継前後の保険料を比較しています。年齢条件や運転者の範囲等を見直しすれば、割高になった親の自動車保険も安くなる可能性があります。等級の引継ぎだけでなく、保険内容の見直しも行うようにしましょう。
自動車保険の等級引継ぎに関するその他の注意点
ここまで色々と等級引継ぎについて紹介してきましたが、まだ紹介できていない細かい注意点がいくつかあります。
気になる点はチェックしておいてくださいね。
事故あり係数適用期間・事故有等級も引き継がれる
自動車保険では、保険を使用すると”一定期間”通常の等級より低い割引率(割高な保険料になる)が適用されます。
これを事故有り係数と言い、それが適用される期間を事故有り係数適用期間と言います。
この事故有り係数及び適用期間は、保険会社を他社に変更しても、家族に等級を引き継いでも、等級と共に引き継がれます。
事故有り係数が適用されていると、割引率はおよそ20%ほど低下します。
たとえば、事故有り17等級だと割引率は38%です(事故無しだと53%)。
これは事故無しの8等級(40%)より割引率が低い数値なんです。
そのため、等級を引き継ぐ年だけで見れば、保険料は引き継がない方が安くなる事が多いんです。
もちろん、長いスパンで考えれば、事故有り等級でも引き継いでいた方が得なケースの方が多いでしょう。
この点は、現在の財布・家計の状況を考慮して、事故有り等級を引き継ぐかどうか検討すると良いかもしれませんね。
注:等級や事故有り係数・適用期間などは保険会社間で情報が共有されているので、引継ぎ時に嘘を付いてもバレます。
最悪の場合、契約解除となってしまうので、正直に申告して等級引継手続きを行うようにしてください。
補償開始時間をしっかりチェック
いつからいつまで自動車保険の補償を受けられるか知っていますか?一般的には、保険始期日の16時から満期日の16時までが補償期間となっています。
当然、この期間外に車を運転して事故を起こしてしまうと、自動車保険から補償を受ける事はできません。
この点について、特に注意してほしい人は「満期日を過ぎて他社へ乗り換える人」です。
保険始期日になっても油断は禁物です。
補償に切れ目が無いように満期日に合わせて契約手続きを行う事が基本ですが、もし満期日を過ぎてしまった場合は、補償開始時間について必ずチェックしておくようにしてください。
なお、保険会社によっては補償開始時間を任意に設定できる会社もあります。
この点についても予め確認しておきましょう。
また、自動車保険の「申込日=保険始期日」とならない事が有る点にも注意してください。
ダイレクト型自動車保険では、申込日の翌日から補償開始(申込時間や支払方法によって翌々日から)となっています。
車に乗らない&等級を引き継ぐ相手がいない場合は中断証明書を!
今回は「等級を引き継ぐ相手がいる前提」で書いてきましたが、人によっては「引き継ぐ相手がいない!」という状況にあるかもしれません。
等級の引継ぎ条件が「同居の家族」に限定されていますからね。
この場合、ただ自動車保険を解約すれば良いのか、というとそうではありません。
取るべき選択肢は「中断証明書」の取得です。
中断証明書とは、契約車両を譲渡・廃車等をする事などを前提に、今後10年間等級を保存でき、再度自動車保険を契約する際にその等級を復活させる事ができる書類です。
引き継ぐ相手がいないんだから中断証明書を取得しても意味無い、と思うかもしれませんが、今後10年の間に子供が実家に帰ってくるかもしれませんし、結婚して家族が増えるかもしれません。
孫と一緒に住む可能性が無きにしも非ずです。
車に乗らなくなり、等級を引き継ぐ相手がいない場合はとりあえずの処置として中断証明書を取得しておきましょう。
自動車保険の更新を忘れていた・間に合わなかった場合
等級を引き継げるのは「満期日から8日以内」です。
もし自動車保険の更新を忘れていた場合や手続きが間に合わなかった場合は、基本的に等級が消滅してしまう事になります。
ただし、多くの自動車保険では、ウッカリ更新忘れ等の備えとして「安心更新サポート特約や自動継続特約」といった特約を付帯している場合があります(保険会社によって名称が異なります)。
この特約が付帯されていれば、「満期日から8日」が過ぎていたとしても等級が消滅せずにすみます。
ただ、この特約が有効なのは一般的に満期日から1ヶ月以内です。
もしこの期間を超えてしまうと等級は引き継がれないので、なるべく早く保険会社に連絡してください。
また、契約していた自動車保険を継続する場合のみこの特約は有効なので、乗り換えを検討していた人は次回更新時まで我慢しましょう。
ファイナンシャル・プランナー(FP)からのコメント
水島静香(Shizuka Mizushima)
国内損害保険会社に主に営業として20年勤務。損害保険会社での経験とFPの知識を活かして複数のWebメディアへ寄稿している。
保有資格:FP2級
FPからのコメント
等級は保険会社を変えても引き継げます。また、家族間で等級を引き継ぐことも可能です。しかし、等級を引き継ぐには条件があるので注意してください。タイミングを間違うと、せっかくの高い等級を引き継げなくてムダにしてしまう場合もあります。
よくあるのが、親から別居している子供へ等級を引き継げないかという相談でした。既に別居しているのであれば、基本的に等級は引き継げません。親から子供へ等級をあげたい場合は、同居しているうちに手続きしましょう。
複数台車を持っている場合は車同士で等級をシャッフルすれば保険料を安くできるかもしれません。しかし、いつでも等級の変更ができるわけではなく、増車したり廃車したり買い替えしたりしたときだけです。持っている車に何らかの変更があったときがチャンスです。さまざまなパターンで見積もりし、一番保険料が安い組み合わせを見つけましょう。
まとめ
「保険会社間」及び「家族間」での自動車保険の等級引継ぎについて紹介してきました。
「進んだ等級を引き継ぐ」か「新規の6等級で契約する」かでは、保険料が大きく変わってきます。
今回紹介した事例では6万円も差額が発生しました。
「保険会社間」と「家族間」でそれぞれ等級を引き継げる条件などが設定されているので、それを満たしているうちに等級引継ぎ手続きを行うようにしましょう。
等級は1年に1つずつしか上がっていかないので、ジャンプアップできるチャンスを逃さないようにしてくださいね。
個人・法人間での等級引継ぎについて知りたい方は、以下の記事をご覧下さい。
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