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損害保険会社の財務諸表は一般の事業会社のそれとは構成要素が大きく異なっているため、ぱっと見ただけだとあまり意味が分からないと思う方がおおいと思います。
少しでも助けになればということで書いているこの財務諸表分析シリーズですが、今回は貸借対照表の資産の部について書いていきます。
貸借対照表の構成
貸借対象表の大枠の構成は事業会社と大きく変わりません。
資産の部=負債の部+純資産の部
となります。
ただし、その大枠は同じでもそれを構成する内容や分類については大きく異なります。
まず資産の部ですが、事業会社では
- 流動資産
- 固定資産(有形固定資産・無形固定資産・投資その他の資産)
- 繰延資産
という風に分類されますが、保険会社では
- 現預金
- コールローン
- 買現先勘定
- 金銭の信託
- 有価証券
- 貸付金
- 有形固定資産
- 無形固定資産
- その他資産
という風に分類されます。
流動固定分類という方法でなくどのように運用しているかが分かる様に運用の形態によって分類しているという点が特徴的ですね。
では、それぞれの内容を見て行きましょう。
現預金、有形固定資産、無形固定資産
これらについては事業会社と変わる所は特にないので省略します。
コールローン
これは損益計算書の解説でもちらっと登場しましたが、短期市場での資金の貸手から見た運用資金のことをコールローンといいます。
金融機関は一日に日常生活では考えられないような大きな資金の取引が日常的に行われています。
すると自身の会社では1日だけでもいいからお金を融通してほしいということがよくあります。
そこで金融機関同士で極めて短期(通常1日)の資金をやりとりする市場(コール市場といいます)で、資金の貸し借りが行われることになり、資産の部に登場するコールローンはその超短期で貸付けている資金の残高を意味しています。
ちなみに利息の計算は(元金×日数×レート)÷365もしくは、一日以内の取引の場合は(元金×レート)÷365となります。
買現先勘定
一定期間たった後に一定の価格で売戻しすることを条件として債券などを購入する買現先取引により発生した金銭債権が計上されます。
買現先取引の詳細について解説すると簿記の授業の様になってしまいますので省略します。
金銭の信託
信託銀行にお金を信託財産として預け、運用してもらっている部分で預けている残高が計上されます。
有価証券
事業会社と基本的に同じです。
ただし計上されるものは多く、簿記のテキストの様に網羅的に登場することが多いです。
各保険会社例えば、国債・地方債・社債・株式・外国証券・責任準備金対応債券やその他の証券等と幅広く投資・運用をしています。
上記に出てくる以外に保険会社特有なものとして、責任準備金対応債券があります。
これは、保険会社の責任準備金は予定利率を有しているものがあり、これに見合う運用を債券で行っている場合はこれをその他有価証券として区分してしまうと評価差額が純資産の部に、満期保有目的の債券にしてしまうと売却に制約ができてしまうのでこれを回避するために一定の条件に合致する場合のみ独立区分として認められるものです。
ちなみにこの場合、期末の評価基準として償却原価法を使い、売却にも制約はありません。
貸付金
これも基本的には事業会社でいう貸付金と同じですが、保険会社特有のものとして保険約款貸付があります。
これは積立保険で既に払い込まれた積立保険料を担保に貸付するもので、2種類あります。
一つは契約者貸付というもので、解約返戻金のうち一定割合までの金額を借り入れられるものです。
もう一つは自動振替というもので、これは、分割払保険料の払込みが遅滞したときに契約の失効を防ぐ為に「自動的に払込みが遅滞した保険料相当額を契約者に貸付し保険料に充当するもの」です。
その他資産
その他資産には色々なものが計上されます事業会社にも出てくるものもありますが、保険会社に特有のものとして未収保険料や代理店貸、再保険貸等があります。
■未収保険料■
これは読んで字のごとくですが、保険契約の保険料が未だ契約者から支払われていない場合の保険料のことです。
未収金の保険料版という感じですね。
■代理店貸■
代理店で獲得した新契約について、代理店が受け取った保険料は保険会社に送金することになるのですが、事業年度末時点で保険会社に入金されていない場合などに発生する、代理店への債権総額が計上されます。
再保険貸
再保険契約に基づき、受取ったり支払がされる再保険料や、保険金などに係る再保険会社に対する未収の金額合計が計上されます。
まとめ
以上の様に保険会社に特有な資産の部について見てきました。
ちょっと簿記や会計をかじった人がみると面食らうくらい違いがあるかもしれませんね。
実際の数字を出す過程はより複雑ですが財務諸表分析の為の基礎知識としてなのでこれくらいで問題ありません。
次回は負債・純資産について見ていきましょう。
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