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交通事故で後遺障害が発生した場合、後遺傷害によって低下した労働能力部分を金銭的に換算して「逸失利益」として賠償金が支払われます。
逸失利益の計算は通常「後遺障害の症状固定時から就労可能年数(概ね67歳まで)」に渡って発生するものとして行われます。(被害者が18歳以上の場合。)
今回紹介する事例は「後遺障害7等級認定者」に対して、明らかに低い賠償金額を提示してきた損保会社の話です。なぜそんな事が起こったのでしょうか?
後遺障害7等級で1,100万円は自賠責レベル
事例は著者柳原三佳氏「自動車保険の落とし穴:朝日新聞出版」より引用しています。
①当時20歳の大学生Aさん(男性)が交通事故で頭部を損傷。
②診断の結果、高次脳機能障害として後遺障害の等級は7等級として認定されました。
③Aさんは大学卒業後、なんとか事務系の仕事に就くことが出来ました。
④しかし、加害者側損保はAさんが就職できているという事実を重視して、逸失利益と慰謝料を合わせて1,100万円の保険金額を提示。
⑤就職は出来ているものの、職場では様々な問題が発生している事や高次脳機能障害者特有の問題点が有ることから、被害者側弁護士が賠償金の増額を請求したところ、当初提示額の6倍である6,600万円で和解が成立。
自賠責の後遺障害7等級の逸失利益は1,051万円です。
今回は、法廷で争っているわけですから逸失利益の計算は自賠責基準ではなく「弁護士基準」で行われてしかるべきです。仮に、弁護士基準で考えればAさんの逸失利益は少なく見積もっても以下の様な金額になります。
前提
①就労可能年数は45年(22歳~67歳まで)
②平均年収は400万と想定(賃金センサスの産業計・企業規模計・男女計・学歴計の平均年収より低く想定)
計算結果:400万×17.774×0.56=約3,980万円
3,980万円は逸失利益だけの計算額です。後遺障害7級の場合の弁護士基準の慰謝料は概ね「900万円~1,100万円」とされていますので、両者を合わせれば、ざっと計算しただけで約5,000万円。
それを「働けているから」という理由だけで、明らかに相場よりも低い1,100万円と提示してくるのですから、恐いですよね。確かに、Aさんに過失が有れば減額されますが、仮に過失割合が50:50でも本来は2,500万円程度の保険金が支払われるはずです。
まして、高次脳機能障害者ですから、今働けているとしても将来どうなるかは分かりません。障害がひどくなって働けなくなるかもしれませんし、会社からクビを言い渡される可能性だって有ります。
そんな状況にあるのに「賠償金が1,100万円」では心もとないですよね。
今回のケースでは、被害者側弁護士の頑張りもあって、当初提示額の6倍の「6,600万円」を獲得出来たから良いものの、難癖つけて保険金の支払額を抑えたいという損保の思考は相変わらずのようです。
損保会社との交渉は骨の折れる作業ですが、将来の生活に少しでもゆとりを持てるように、明らかに低い金額を提示された場合には徹底抗戦した方が良いでしょう。
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