この記事を読むのに必要な時間は約 11 分です。
「対人賠償保険」と「対物賠償保険」は自動車保険の核となる保険です。
交通事故によって損害を与えると言ったら”人”及び”物”ですからね。
この2つは自動車保険を組む際に外せないものでしょう。
この記事では「対人賠償保険」と比較をしながら「対物賠償保険」の補償金額を無制限にした方が良い理由を紹介していきます。
対人賠償保険のみならず対物賠償保険の補償金額も無制限に設定すべき
まず対人賠償保険についてですが、これは車の運転中に他人を死傷させてしまい、賠償責任を負った場合に保険金が支払われるものです。
後述しますが、損害賠償金額が自賠責保険の限度額を超過した場合は、この保険から保険金が支払われます。
対人賠償保険の補償金額の設定に関しては「無制限」としている人が多いです。
これには以下の2つの理由が考えれます。
- 自動車保険会社側が無制限以外の選択肢を与えていない事が多い
- 限度額を設定出来たとしてもほとんどの契約者が無意識的に「無制限」を選択するから(人身事故に対しての補償意識はやはり高いのでしょう。)
一方、対物賠償保険の補償金額については、対人賠償保険に比べると限度額を設定している人が多いのではないでしょうか?対物賠償保険は車の運転中に他人の物に損害を与えてしまい、賠償責任を負った場合に保険金が支払われます。
物という意識からか、そこまで賠償金額が高くならないと考えているのかもしれません。
みなさんは、この2つの保険の補償額をいくらにしていますか?本や雑誌やネットでは無制限にするのが良いと書かれている事が多いです。
その理由はいったいどこにあるのでしょうか?
お金が無いからといって対人だけ無制限にして対物に限度額を設けていませんか?しかし、それは非常に危険な考え方です。
対物賠償保険も無制限でかけるのが常識です。
以下、その2つの理由をご紹介します。
理由その1:対人・対物ともに高額な損害賠償額になる恐れが有る
対物賠償保険の補償金額を無制限にすべき一つ目の理由は、その高額な損害賠償額です。
本記事は対物賠償保険に焦点を当てた記事ですが、比較対象という意味で人身事故の場合の賠償額をまず紹介します。
人身事故の場合の損害賠償額ベスト5
認定総損害額 (万円) | 判決年度 | 年齢性別 | 被害者職業 | 被害様態 |
---|---|---|---|---|
52,853 | 平成23年 | 男41歳 | 眼科開業医 | 死亡 |
39,725 | 平成23年 | 男21歳 | 大学生 | 後遺障害 |
39,510 | 平成23年 | 男20歳 | 大学生 | 後遺障害 |
38,281 | 平成17年 | 男29歳 | 会社員 | 後遺障害 |
37,886 | 平成19年 | 男38歳 | 会社員 | 後遺障害 |
直近の人身事故の場合の最も高額な損害賠償額は5億を超えています。
(参考:裁判例や和解例の紹介)
眼科の開業医ということで、逸失利益が非常に高く計算されたためと考えられますが、一般的なサラリーマンの生涯賃金を軽く超えています。
これは保険無しでは払えませんよね。
人に対して賠償責任が発生した場合には、まず自賠責保険から保険金が支払われますが、この自賠責保険には限度額が存在します。
死亡の場合には3,000万円が限度で、後遺障害の場合には4,000万円が限度です。
自賠責保険だけでは億単位の賠償命令をカバーする事はできません。
また、交通事故の被害者は1人とは限りません。
1人に対しての損害賠償金額が1億円だったとしても、賠償する相手が4人だったら4億円になってしまいます。
保険会社が支払ってくれるのは契約上の補償金額までです。
もし、限度額を超えた場合にはあなた自身が被害者に対して支払う必要が出てきます。
自分の人生を棒にふらないためにも、対人保険は無制限に設定しておきましょう。
対物事故の場合の損害賠償額ベスト5
では、対物事故における高額賠償事例は一体どうなっているでしょうか。
こちらの情報も損害保険料率算出機構を参考にしています。
認定総損害額 (万円) | 判決年度 | 被害物件 |
---|---|---|
26,135 | 平成6年 | 積荷(呉服・洋服・毛皮) |
13,580 | 平成8年 | 店舗(パチンコ) |
12,037 | 昭和55年 | 電車・路線・家屋 |
11,798 | 平成23年 | トレーラー |
11,347 | 平成10年 | 電車 |
平成6年に2億6135万円の賠償金額が発生してます。
対物事故はそこまで高額にならないイメージはありますが、そんな事はありません。
事故が原因で高額の商品が売り物にならなくなったり、お店に突っ込んでしまった場合には休業損害が発生したりと、私たちが思っている以上に賠償額は高額になる傾向が有ります。
分かりやすいのは上記事例の「パチンコ店」ですね。
この場合には
- ①パチンコ台の修理費用
- ②壊れてしまった外壁の修理費用
- ③外壁を修理している間に営業できなかった事に対する休業損害
などが賠償額に含まれていると考えられます。
パチンコ店のお金の動きは、その辺の駄菓子屋さんとは比べ物になりませんから、営業が1日ストップするだけでも莫大な休業損害を請求されるのではないでしょうか?
対物損害を甘く見ていると「自腹では払えない!」という事態を招いてしまいます。
必ず無制限で加入しましょう。
しかも、理由②で書いているように、対物賠償保険の保険料は無制限にしてもそこまで高く無いんですよ。
理由その2:補償金額を無制限にしてもそこまで保険料は変わらない
保険料がそこまで変わらない事を証明するために、対物賠償保険の補償金額が「2,000万円の場合」と「無制限の場合」で年間の保険料がいくら変わるのかを実際に見積もってみました。
使用した保険会社はソニー損保です。
前提条件は以下のとおりです。
ノンフリート等級6A等級 /事故有係数適用期間 0年 /トヨタ アイシス(型番ZGM11W) 免許:ブルー 走行距離:無制限 /年齢:41歳 /運転者は家族に限定 /
■対物の補償金額が2,000万円の場合
対物の補償金額が無制限の場合
結果をまとめるとこうなります。
限度額 | 保険料 |
---|---|
2,000万円 | 267,850円 |
無制限 | 274,660円 |
年間差額 | 6,810円 |
いかがでしょうか。
補償額は何千万、億レベルで違うのに、私達が実際に支払う保険料の額は年間で6,810円、月額で見ればたった568円しか変わりません。
無用なところをケチったばっかりに人生を棒に振るのは嫌ですよね。
対物の賠償額は必ず無制限にしておきましょう。
余談です。
対物の賠償額を低めに設定していて、それ以上の損害額が発生した場合。
こういう場合、保険会社は自分が設定していた補償額の範囲内までは示談交渉を行ってくれるようですが、それ以上になると被保険者本人で何とかして下さいとなるそうです。
金銭的ダメージの上に交渉事となると非常にしんどいです。
そうならないように対物補償は無制限にしておきましょう。
【参考】対物賠償保険の限度額を無制限にしても示談がこじれる事も・・・
対物賠償保険の補償金額を無制限に設定しておけば、被害者の”物”に与えた損害が全額補償されて示談は円満に進むと思いますよね。
しかし、そうは問屋が卸さないケースが有ります。
例えば、相手の車がかなり古いケースです。
このケースでは、車の時価よりも修理費用が高くなってしまう場合が多いです。
そして、物に対する賠償金額の算定は時価が基準となるので、時価を超えた修理費用については対物賠償保険からは一切補償されないのです。
被害者側は自分が悪くないのに自腹を切らなければならなくなるので、示談交渉において「差額分を払え!」とゴネてきます。
加害者側もこれ以上の出費は下げたいので「払いたくない!」となります。
こうなると、示談交渉は難航します。
対物賠償保険の補償金額を無制限にしたとしても、こうしたトラブルに巻き込まれる可能性がある事は覚えておいて下さいね。
ただし、対物賠償保険の弱点とも言える時価基準を補ってくれる特約が有ります。
それが「対物超過修理費用補償特約」です。
この特約は、相手の車の時価を超えた修理費用についても補償してくれる特約です。対物に関する厄介事に巻き込まれたくないのであれば、この特約を付帯してみても良いかもしれませんね。
注:対物超過修理費用補償特約には限度額が有り、また過失相殺の対象にもなります。
付帯したからといって必ず示談が円満に解決するわけでは有りません。
専門家からのコメント
中村 傑 (Suguru Nakamura)
大垣共立銀行を退職後、東京海上日動火災保険に代理店研修生として入社。研修期間を経て、2015年に独立開業。2020年に株式会社として法人成り、現在に至る。家業が自動車販売業であり事業承継者でもある。車と保険の両方の業務を兼務しており、専門領域が広い事が強み。
コメント
この記事にあるように、当社で自動車保険をご契約頂いている全てのお客様の対物賠償保険の保険金額は無制限です。ですが残念ながら、他社、対代理店でご契約頂くお客様の証券を拝見した際に、「対物賠償1,000万円」という内容を見た事があります。
お客様にお聞きした所、「団体契約で昔からずっと同じ内容だった」との事でした。おそらくは、契約している側も、代理店側も、その必要性を認識していなかった事が原因と考えられます。
自動車保険は、あくまでも任意保険であり補償内容、契約の有無に関わらず、事故を起こしてしまった際の賠償責任は発生します。最終的には自己責任となりますので、誰かに任せるのではなく、ご自分で契約内容を把握する必要があります。
関連記事をチェックする