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交通事故で仕事を休んで、給与が減ったり売上が下がったりしてしまった場合に、減少した分の給与や売上を損害賠償として請求する事ができます。このような補償を「休業損害」と言います。
この休業損害は、サラリーマンなら勤めている会社に「休業損害証明書」を発行して貰うことによって、簡単に損害賠償額を証明する事ができます。
参考:サラリーマン・OL(給与所得者)の休業損害(収入日額)
しかし、会社経営者(代表取締役社長や会長)や会社役員(取締役や監査役etc)の休業損害算定の場合には簡単にいきません。それは何故なのか?まだどのように算定するのかについて見て行きたいと思います。
会社経営者や会社役員の給与の考え方
なぜサラリーマンのように簡単に証明ができないのかというと、会社経営者や会社役員は以下の2種類の給与で構成されているからです。
- 労務対価部分・・・休業損害として認められる
- 役員報酬部分・・・休業損害として認められない
労務対価部分とは、接客・営業などの実際の労働に対して支払われるものです。これは、役員では無い会社員が受け取る給与と同様の性質であると言えます。
一方、役員報酬とは利益の配当部分の事を言い、労働に対する報酬ではなく役員としての地位に対する報酬で、働いていなくても毎月支払われるものです。ということは、事故で入院して仕事ができなくても役員報酬は毎月支払われる事になるわけです。
従って、会社役員の休業損害を算定する場合、休業したとしても支払われる役員報酬は損害を算定する上では除外し、「労務対価部分のみ」を算出することになります。しかし、会社役員の「労務対価部分」を算出・証明することが中々難しいので、損保会社との間で争いになる事が多いです。
会社役員等の労務対価部分算定方法
会社役員等の給与は「役員報酬」と「労務対価部分」の線引が明確にされていない事が多いので、両者をどのように切り分けるかが問題になってきます。
弁護士基準では「職務内容やその他の役員・従業員の給与またその推移などの決算資料」を参考にしつつ、全報酬額の割合で算定する方法が多く採用されています。
■給与額310万円の会社代表の判例
代表自身が専門的な労務を提供し、事故前と事故後の売上を比較した結果、相当額の売上が減少している事から給与額に占める労務対価部分は多いとして、給与額の80%を労務対価部分として認めた例
会社の規模が小さい場合は100%認められる事も有る
なお、会社の規模が小さければ労務対価部分を100%と考える場合あります。なぜなら、従業員が0人であるような場合、会社の売上全体を経営者が一手に担っている事になるからです。
また、従業員が数人いた場合であっても、会社経営者や役員が入院中は「店を閉めざるを得ない場合等」も労務対価が100%になると考えられます。
社外監査役や社外取締役は労務対価部分0%
社外の役員とは、会社には在籍していないが役員としての地位についている人達の事で、このような役員は会社に対して労務を提供している事がほとんど有りませんので、給与のほとんどを役員報酬部分が占めると考えられます。(労務対価部分は0%となり、休業損害は認められない事が多い)。
役員個人ではなく、会社が損害賠償請求権を取得する事もある
役員が欠勤しているにも関わらず、会社が給与を支払っている場合には、役員個人の損害賠償請求権を会社が取得したとして取扱います。
この場合、会社は役員から労働を提供されなかったのに、労務対価を支払っている事になります。つまり、本来払う必要の無い支出が発生していると判断して、会社に損害賠償請求権を認めるのです。
■年約1700万円の給与の会社代表の判例
事故後も事故前と同様の額を会社代表に支払っていた会社について、給与額の80%を労務対価部分として会社の損害とした例
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