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東洋医学療法は損害賠償事例では適切な治療費として認められにくい傾向にありますが、それはなぜでしょうか??原因や判例を見ていきましょう。
治療費として認められるには医師の指示が必要
治療費として認められるには、まず医師の指示に従った治療を受ける必要があります。従って、鍼灸やマッサージに関する費用についても医師の指示を受けて発生したのであれば当然認められることになります。(病状が改善する可能性もあるので受けてもいい、という消極的な指示でも可)
しかし、医師の指示が無いのに、無条件に治療費として請求すると問題が生じることがあります。例えば温泉治療(計画的に温泉に浸かることで病状の改善を図る治療法)がありますが、これは医師の指導によって医療機関の付属診療所かそれに準ずる施設での治療に限られています。
従って、自分の判断で、温泉街に行って効能があると書いている温泉に入ったからといっても治療とは認められません。これを治療と認めてしまうと、ケガをしたら温泉旅行に行ける!と勘違いする人が続出してしまいますからね。
このように、医師の指示がない場合に問題になるものとしては、【鍼灸・マッサージ・漢方療法・民間療法・市販の治療具・水泳の為のスポーツクラブ費用】などがあります。
医師が指示すれば、東洋医学療法で問題は無いのですが、実際には一般的に医師(自動車事故での治療が前提ですので整形外科医)が東洋医学療法を指示することはほとんどありません。
なぜ東洋医学では駄目なのか?
医学には西洋医学と東洋医学がありますが、日本の損害賠償の現場では、西洋医学>東洋医学という関係にあります。整形外科医(西洋医学)の作成した診断書は信用性が高いけど、柔道整復師等(東洋医学)の作成した施術証明書は軽く扱われてしまうというのが現状なのです。
東洋医学でも病状が改善することはもちろんありますし、その効果は無下にはできないですが、このような扱いになってしまったのにはお互いが競合関係にあるという点が大きいです。競合関係にある結果、それぞれの資格を持って治療するまでの敷居の高さに差があることが、整形外科医が東洋医学を毛嫌いする傾向にある一因と言われています。
そこで、以下でそれぞれの資格取得の流れを見てみましょう。
整形外科専門医
大学の医学部(6年間)に通い国家試験に合格し卒業した後、2年間研修医として様々な科で研修。その後6年間の臨床研修を経て、専門医試験に合格して初めて整形外科専門医となれます。
はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師
指定された学校で3年間学んだ上で厚生労働省管轄の公益財団法人東洋療法研修試験財団が実施する国家試験に合格した人がはり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師として登録することができます。
柔道整復師
指定された学校で3年間学んだ上で厚生労働省管轄の公益財団法人柔道整復研修試験財団実施する国家試験に合格すると施術所をすぐに開くことができます。
以上で見ても分かる様に、整形外科専門医となるには大学に入学してから問題なく進んだとしても14年程度はかかることになります。柔道整復師やはり師等は4年もあれば施術所を開設することができるという点から比べても、同じ国家試験とはいえども知識や経験等には大きな差があることが分かります。
このようにお互いに壁がある為、整形外科医が治療の方針として東洋医学を指示することというのはあまり無いのです。
医師の指示がなくても治療費として認められることもある?
上記では、医師の指示により治療を受ける事が治療費として認められる条件と書きましたが、医師の指示がなくても認められたという事例も以下の様にあります。
①頸椎捻挫等により整骨院で施術を受けていた男性の事例。東洋医学療法による場合は原則医師の指示が必要だが、施術を受けた事により痛みが和らぎ整形外科での治療回数が減少していることや、施術費用も社会一般と比較しても妥当な範囲内であったことから、症状固定までの施術費用を損害として認めた例
②頸椎捻挫により事故直後から様々な症状が出ていた男性の事例。症状がひどくマッサージ治療を活用したことも一概に否定できないものとして、鍼灸・カイロプラクティック・マッサージ代について一部を認め、温泉治療の宿泊料は認めなかった例