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交通事故が原因で、【義歯や義足・コンタクト・補聴器】などを使用せざるを得なくなった場合、これらの購入・買い替え費用は損害として認められるでしょうか?
介護用品や装具の値段が争いの争点になる
冒頭で義歯や義足などは損害として認められるのか?と疑問を投げかけましたが、これに関しては損害として認められるのが普通です。
当然ですよね。
交通事故によって身体等に障害が残ってしまった場合、生活をしていく上での介護用品や装具は必要不可欠ですからその費用は問題なく認められます。
しかし、問題となってくるのは「その介護用品や装具の値段」です。
介護用品に限りませんが、機能が同じ商品であっても、サイズや色、製品の販売元のブランド力等によって値段は大幅に変わることが多いです。
例えばですが、ブランドバッグなんかはその傾向が顕著です。
ヴィトンが公式で販売しているバッグであれば数万・数十万円の価値が有りますが、その辺の素人が作成したヴィトンの模倣品にはそんな価値は付かないでしょう。
ヴィトンの例は多少大袈裟ですが、例えば松葉杖一つとってみても素材や販売元のブランド力等によって値段は変わってきます。
また、3万円で買ったものが5年後には同じ金額であるとは限らないですし、より機能性のよい安い商品が出てくることも当然考えられます。
将来の生活に必要な介護用品や装具だからといって、無条件で購入金額を損害として認めてしまうと、ある案件では高めの介護用品と賠償額が計算されたが、あの案件では安めの介護用品で賠償額が計算されていた・・・
という感じで不当に損害賠償金額が変動してしまう可能性が有ります。
法律でどの値段のものが一般的であってどれが高級なものだと判断する基準は特に定められていないのでこういう問題が発生するわけですね。
そこで、裁判ではどのように扱われているかを以下で見ていきましょう。
(後遺障害の中でも重度後遺障害の場合の装具については、「重度後遺障害事案における装具等の紹介」で紹介しています。)
基準や判例ではどうなっている?
交通事故損害額算定基準(青本)では装具等の取り扱いについて以下の様に記載されています。
「義足、車椅子、補聴器、入歯、義眼、かつら、眼鏡、コンタクトレンズ、身障者用ワープロ、パソコン、介護ベッド、医療器具などの購入費、処置料などにつき相当額。
ただし、将来の買替え費用については原則として、中間利息を控除する。」
上記の内容をまとめると、特徴としては以下の2点となります。
- 装具は必要かつ相当な内容であれば損害と認められる
- 将来の買い替え費用については中間利息を控除する。
1度装具を購入してそれが一生使えるのであれば、その時の購入金額が損害額になりますが、基本的に消耗品なので数年に1度は買い替える必要があります。
この将来の買い替え費用についても損害額として認められますが、将来分の費用も現時点で一括して支払うのが普通ですので、中間利息を控除してあげなければ正確な賠償額は算出できません。
そこで中間利息を控除した場合の買い替え費用の計算を計算例で見てみましょう。
30歳で交通事故に遭遇し、片足を失い義足をつけることになった事例。
義足の制作にかかる費用は80万円で60歳までの間6年に1度作り直すこととなった場合。
30歳80万円
36歳80万円×6年間のライプニッツ係数0.74=592,000円
42歳80万円×12年間のライプニッツ係数0.55=440,000円
48歳80万円×18年間のライプニッツ係数0.41=328,000円
54歳80万円×24年間のライプニッツ係数0.31=248,000円
60歳80万円×30年間のライプニッツ係数0.23=184,000円
合計2,592,000円
注:ライプニッツ係数については、「ライプニッツ係数とは〜中間利息控除算定時の基準係数〜」で解説しています。
判例では後遺障害の内容から個別に装具の必要性や金額を判断して結論を出しているものが多いように思います。
場合によっては中間利息を控除しないという判断もされるようです。
①小学生の後遺障害で将来の歩行補助具が必要となった事例。19歳になるまでは身体の成長に合わせて毎年器具を作り直す必要があるので、1年に1度購入する事を認め、70歳になるまでは5年に一度購入する事を認めた例。
②足の指に機能障害を負った女性の事例で、足関節装具代17,561円を平均余命に渡り2年毎の買い替え費用を認めた例。
③右目を失明した事例で、平均余命の間4年毎に義眼を作り替えるものとして損害額を計算したが、義眼を作り替える費用が将来的に維持されるとは言えないため、中間利息を控除しない金額で認めた例。
将来の治療費は、必要になった都度請求することも可能
裁判の場合に「将来の治療費はその都度請求する事」という判決は稀だと思いますが、示談の場合にはその辺りの取り決めは当事者双方の合意に基づいて決定されるものなので、【中間利息を控除すること無く買い替えの都度実際にかかった費用を支払ってもらう】という示談内容を主張しても問題有りません。
しかし、10年・20年経過した後に、加害者側が誠意を持って対応してくれるとは限りませんので中間利息を控除してでも現時点で一気に貰っておくほうが賢明だと思います。