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交通事故の裁判で証拠として提出されるものの中にコンピューター解析ソフトを用いた事故のシュミレーション画像があります。
この解析ソフトとして有名なのがpc-crashというオーストリアのDSD研究所で開発されたもので、科学捜査研究所や大手損保会社などの多くの機関や会社で使用されています。
事故解析ソフトは事故当時の状況(道路の幅や事故車両情報や障害物などあらゆる情報を入力して)をいろんな角度の視点から再現する事が可能で、また交通量の多い場所や危険な場所での実際の再現を行う事ができないような事故でも再現する事を可能にしてくれます。
出展:日本交通事故鑑識研究所
上の映像を見て頂いたらわかるのですが実にリアルに、また事故当事者の視点や客観的な視点から事故を調査することができるすごいソフトです。
ここまでリアルに事故を再現でき、また既にいろんな機関や会社で用いられている事から解析ソフトの認知度の高さを考えても、裁判官が証拠として採用してもなんら不思議はありません。
しかし、人の証言や証拠より高性能の機械が作成する事故再現映像の証拠の方が間違いが少ないと考えてしまう所に大きな落とし穴があります。
この機械への信頼性という落とし穴にハマるのは何も被害者だけでなく裁判官も同様なのです。
ではなぜ高性能の機械への信頼が落とし穴となってしまうのかについて考えていきましょう。
落とし穴の原因
次のような事が高性能機械への信頼の落とし穴の原因となります。
- 機械を操作するのは人間
- 損保側の考え方
機械を操作するのは人
機械は勝手に事故再現映像を作成してくれませんよね。
機械が動作するためには人間が事故の現場状況などのデータを入力しなければ動作しません。
操作する人間が正しい情報を入力すれば再現映像も正確な物になりますが、ミスや故意により誤った情報が入力されれば当然再現映像も間違った物になってしまいます。
そして損害賠償裁判において事故再現映像を操作する人が誰なのかと言うと損保側の社員なのです。
損保側の考え方
損保側の基本的な考え方は保険金の支払い額を低く抑える事です。
まあ営利企業なので当然の事とは思いますが。
この損保の考え方は社員1人1人の行動に影響してきます。
つまり保険金を満額支払うなんて事をすると当然上司に怒られたり、自分の業務成績に悪影響を及ぼしてしまうのです。
今回の解析ソフトの話に戻すと保険金を低く抑えるために損保側に有利な再現映像を作成する事も考えられるわけです。
もう一度再現映像を御覧ください。
出展:日本交通事故鑑識研究所
映像は事故が起きる前から始まって衝突して停止したところで終わります。
何が言いたいのかというと、この映像で絶対に正しいと言える事は事故車両の停止位置だけなのです。
なぜなら事故車両の停止位置は実際の事故現場の検証で判明しているからです。
その他事故車両同士がぶつかった角度やスピード等に関しては当事者の供述に頼るしか有りませんよね。
であれば、この停止位置になるように自動車の速度や進入角度などを損保側に有利になるように操作する可能性だって大いにあるわけです。
そして最新鋭の解析ソフトを利用して巧みに作成された再現映像は裁判官をも簡単に騙すことが出来ます。
裁判官は法律のプロであって、解析ソフトを操作するプロでは無い。
ということですね。
「自動車保険の落とし穴-著者柳原三佳」において、実際に損保会社が加害者に有利な結果が出るように、解析ソフトに入力するデータ(事故の前提条件)を捻じ曲げて作った解析結果を裁判に提出し、加害者が無責となった事例が紹介されています。
上記事例のように実際に裁判官も騙されてしまうのです。
では、裁判官でも信じてしまう事故解析ソフトの映像証拠に対抗するために、被害者はどのような対策を取れば良いのでしょうか。
被害者が考えなければいけないこと
被害者はこのような高性能の技術を用いた証拠であっても鵜呑みにしてはなりません。
「機械がそう示しているんだったら仕方が無い」と考えてしまいがちですが、実際、損保会社の担当者が前提条件を勝手に変更したという事例も有るわけですから、その証拠が本物なのか?という所をしっかりと考えるようにして下さい。
先ほど紹介した柳原三佳さんの著書内ではこの裁判の時に解析結果が妥当なものであるかを確認するために解析ソフトの製造元があるオーストリアまで足を運んで検証したとも書かれています。
そこまでする資力がある人は多くはないと思いますが、損保会社の言い分がどうしても腑に落ちない場合には徹底的に抗戦するという姿勢も大事かと思います。
その他、被害者がやるべき事としては、事故直後の証拠保全が挙げられます。
事故現場の写真を1枚でも多く撮影する事(様々な角度、様々な距離から)、目撃者がいれば連絡先を聞き後日証言してくれるようにお願いする事等が考えられます。
現場のタイヤ痕の位置や形、衝突に寄って飛び散ったガラスの破片などは時とともに急速に消滅する可能性が有ります。
また事故車両の停止位置や角度、事故車両の損害の状況も現場検証が終了してしまえばもう見ることが出来ないのが普通でしょう。
事故の様子は証拠が有れば有るほど正確に予想できますので、この時を逃さず証拠を残しましょう。
親族・友人・知人が事故に遭って悲しむ気持ちは分かりますが証拠保全のおかげで後々示談や裁判を有利に進められる可能性は高くなります。
損保側を信じていれば泣きを見るのは被害者なのです。
自分を守れるのは自分だけです。
万が一事故に遭ったときには証拠保全は忘れないように行いましょう。
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