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後遺障害が発生するような傷害を負った場合には、症状固定の前後で損害賠償の計算内容が変化します。症状固定前は、傷害に関しての損害賠償計算をし症状固定後は後遺障害に関する計算をします。
この流れは自賠責基準でも弁護士基準でも同様です。この2つの基準の違いは傷害の計算の部分でも説明していますが賠償金額に大きな違いがあります。自賠責基準での慰謝料の最高額は1,600万円、弁護士基準では3,100万円でその差は1,500万円にもなります。
示談の場で加害者又は加害者の任意保険会社は金額の低い自賠責基準又はそれに多少上乗せした任意保険会社独自の基準で賠償金額を提示してきます。
「こちらの金額は法律で定められた基準より少し上乗せした金額となっております。」と言われた場合に弁護士基準の存在を知らないと何となく得した気分になりますが後で後悔する事になります。実際は損をしているのですから・・・。そこで今回は後遺障害を負った場合の弁護士基準の慰謝料について説明していきたいと思います。
参考記事:【後遺障害】の場合の損害額の算定方法(自賠責保険の場合)
後遺障害等級別慰謝料額
後遺傷害の等級は自賠責保険の後遺障害等級表と基本的には同じ扱いになります。つまり自賠責の等級表で後遺障害1級に該当した場合には弁護士基準でも後遺障害1級として慰謝料を計算します。
後遺障害の等級認定により等級がわかれば弁護士基準での後遺障害の慰謝料は等級別に以下のようになっています。
後遺障害等級 | 慰謝料金額 |
---|---|
1級 | 2,700~3,100万円 |
2級 | 2,300~2,700万円 |
3級 | 1,800~2,200万円 |
4級 | 1,500~1,800万円 |
5級 | 1,300~1,500万円 |
6級 | 1,100~1,300万円 |
7級 | 900~1,100万円 |
8級 | 750~870万円 |
9級 | 600~700万円 |
10級 | 480~570万円 |
11級 | 360~430万円 |
12級 | 250~300万円 |
13級 | 160~190万円 |
14級 | 90~120万円 |
後遺障害等級が1級なら2,700万円~3,100万円となりますが、この金額は賠償請求する際の目安となるものなので必ずしも満額が認められるとは限りません。
また等級が認定されないような障害であったとしても、その箇所や症状によっては慰謝料が認められる場合もあります。
■ケース-1
交通事故により女性が顔面と両腕・両足に後遺障害等級非該当となる醜状を負ったが、醜状の数が複数であった事とある程度の大きさであった事から後遺障害慰謝料50万円を認めた例
※醜状は後遺障害の等級表に記載されていますが、要件として醜状の大きさが「手のひら大・鶏卵大・10円銅貨大」となっており醜状があってもその大きさによっては認められない場合もあります。
■ケース-2
交通事故により右目0.1(矯正視力は1.0)・左目0.3(矯正視力は0.9)となる後遺障害非該当である視力障害を負った男性に、後遺障害慰謝料を70万円認めた例
※視力障害は矯正(メガネ・コンタクトレンズ等)が可能であれば矯正視力によって判定し、後遺障害となる視力は0.6以下から。
■ケース-3
交通事故により頚椎捻挫と診断されその後の症状につき後遺障害非該当とされたが、後遺障害慰謝料55万円を認めた例
※頚椎捻挫はいわゆるむち打ち損傷の事です。むち打ちは後遺障害等級表で12級と14級の「神経症状を残すもの」に該当するのですが、等級認定の際に後遺障害に該当しないと判断される事があります。
参考記事:むちうち後遺障害としての損害請求
ここまでは、被害者本人の後遺障害慰謝料についての説明でしたが、重度の後遺障害を負った場合には親族にも固有の慰謝料が認められる事があります。以下では親族固有の慰謝料について説明していきます。
親族固有の慰謝料
親族固有の慰謝料というのは直接交通事故によって損害を受けてはいないが、被害者本人が事故により死亡した事や重度の後遺障害を負った事により親族が受けた精神的苦痛に対する慰謝料として親族に支払われるものです。
ただ親族固有の慰謝料は元は被害者が死亡した場合に認められていたものでした。なぜなら民法711条にはこのように規定されているからです。
(近親者に対する損害の賠償)
第七百十一条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。
しかし、裁判所の判例によって重度の後遺障害の場合にも認められるようになりました。以下がその判例の内容です。
事案:不法行為により女性(娘)は顔に障害を負い、その結果顔面に著しい醜状を残す後遺障害を負った事に対して親族固有の慰謝料を認めた。
後遺障害に対して親族固有の慰謝料を認めた理由:民法711条は親族の慰謝料請求を生命を侵害された事のみに対して規定していると解釈するのではない事、また、女性(娘)の後遺障害は母にとって死亡した場合の精神的損害と同等と考えられる事から、民法711条の規定内容に類すると考えられ、親族固有の慰謝料請求が可能と判断。
親族の慰謝料が認められる後遺障害は、介護を要する後遺障害1級や2級といった場合が多い傾向にありますが、その他の等級でも認められているものもあります。
弁護士基準は被害者本人の後遺障害慰謝料に関しては等級別に慰謝料額を定めていますが、この親族固有の慰謝料に関しての基準は定められておらず、判例によって様々となっています。では親族固有に慰謝料が認められた判例をいくつか紹介します。
ケース1-後遺障害等級1級
18歳女性の植物状態の後遺障害に対して本人分の後遺障害慰謝料3,000万円、退職して看護をした父と、飲食店を休業して介護をした母に対して親族固有の慰謝料父に300万円、母に300万円を認めた例
ケース2-後遺障害等級2級
12歳男子中学生の高次脳機能障害に対して後遺障害慰謝料3,100万円、親族固有の慰謝料として父母に各150万円、妹に50万円を認めた例
ケース3-後遺障害等級12級
1歳男児の後遺障害に対して、傷害・後遺障害慰謝料400万円、両親に生命を侵害された場合と同等の精神的損害を受けたと考えられ各30万円を認めた例
後遺障害1級や2級など重度の後遺障害の場合には親族の精神的損害は当然ながら介護にあたる必要性もあることからかなり多くの判例があります。一方介護を要しない後遺障害の場合には前者よりは少なくはなりますが、親族が受けた精神的損害(子供や親自身の将来への不安や失望など)が大きい場合に認められているようです。
ここに紹介した判例は判例集を参考に記載していますが、短い判例集を読むだけでも心が痛みます。運転手の皆さんは自動車の利便性や楽しさやかっこよさなど光の部分だけを見るのではなく、こういった悲しい事故が起きている影の部分にも目を向け、日頃の安全運転に活かしていって欲しいと思います。
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