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交通事故に遭遇して重度の後遺障害が残った被害者に待ち受けている日常生活は想像を絶するほど大変です。
そこで家や自動車などを被害者が生活しやすくしたり、家族が介護をしやすくしたりするために改築したり改造したりすることがよく有ります。
いわゆるバリアフリーですね。
では、このバリアフリー化にかかる費用は裁判でどこまで認められるのでしょうか。
自賠責基準での改造費
自賠責基準(自動車損害賠償責任保険支払基準)ではこの点については特に定められていません。
人身事故があった時に自賠責基準の【傷害】による場合は治療関係費・文書料・休業損害および慰謝料の限度は総額で120万円までしか認められていないからです。
自賠責にはこの限度額の基準があるので改めて家屋や自動車などの改造に係る費用についての決まりを設ける必要がないからです。
【死亡】の場合には当然家や車を改造する必要が有りませんから論点になることが有りません。
日弁連基準での改造費
一方交通事故損害額算定基準(日弁連基準)では以下の様に定めています。
家の出入口、風呂場、トイレなどの設置・改良費、ベッド、椅子などの調度品購入費、自動車の改造費などにつき実費相当額。
自賠責基準とは違い特有の基準があり、改造に必要となった実費相当額が損害額に含まれるということになっています。
これらの2つの基準を並べると、上限のある自賠責基準よりも実費相当額という上限が定められていない日弁連基準の方がよさそうですね。
「実費相当額」にも争点がある!?
上記の様に基準があるからといって家屋や自動車などの改造費に関して、どんなときでも実費相当額が支払われるかというと、そういう訳ではなく実際の裁判の現場では様々な争点があります。
主な争点は以下の通りです。
- ①本当に必要な改造か、無駄に高級仕様ではないか
- ②改造の為に土地を新たに購入したときどこまでを損害額と考えるか
- ③改造による家族の便益を損益相殺的に調整するか
- ④自動車の改造費は本当に必要か、無駄に高級仕様ではないか
- ⑤改造費が認められる障害はどの程度からなのか
それぞれの争点について一つずつ内容を見ていきましょう。
①:本当に必要な改造か、無駄に高級仕様ではないか
上記の日弁連による算定基準では改造に要した実費相当額と決められていますが、これはつまり「実際に改造や購入するのに必要な金額」のことを意味しています。
ここで問題となるのが、本当に改造する必要があるのかや無駄に高級なものに改造したりしていないかという点です。
損害賠償としてお金をもらえるからといって贅沢をするというのは普通に考えておかしい事ですからね。
①重度の後遺障害のある男性が、バリアフリー化する際に家族の生活スペースを2階、両親の生活スペースを1階と分けるようにエレベーターの設置などの見積もりを出したが、1階2階の両方にシステムキッチンを設置することや、食洗機・アコーディオンカーテン等を設置することまでは介護に必要とは認められず見積りの半額しか認めなかった例
②女子高生の2級後遺障害について、もともとの建物を改造すると新築と同様かそれ以上の費用がかかるため、新築の方が妥当と判断し新築費用の6割までを認めた例
②:改造の為に土地を新たに購入したときどこまでを損害額と考えるか
家屋をバリアフリー化するとき、元々の家屋が改造するのに向いていない形であったり改造するには費用が多くかかるのでバリアフリーの家屋を新築するということがあります。
(場合によっては土地自体も新たに購入するということも!)
このときに問題になるのは、土地は購入すると資産としてずっと手元に残る事になるのでどこまでを損害額と考えればいいのかということです。
(家屋の新築についてはバリアフリー化するのに直接かかった工事代金を損害額とすればい良いので問題になりません。)
この点については、裁判では取得した新居の何割か(割合の根拠は必ずしも明らかという訳ではありません)を損害として認める傾向にあります。
③:改造による家族の便益を損益相殺的に調整するか
エレベーターを新しく家屋に設置したときは他の家族もエレベーターを使うことになります。
エレベーターを設置したことで被害者だけでなく他の家族にとっても便利になります。
ここで問題になるのが、家族にとっても便利なのであれば家族の便益の損益相殺的調整が必要なのではないかという問題です。
つまり被害者だけでなく他の人にとっても便利になっているので損害額を考える上では考慮するのが筋だろうということです。
重度の後遺障害がある高校生について、旧自宅の改築では不十分で新築の必要性を認めたが、もともと家族は自分の部屋がなく洗面所や浴室も共通のものを利用していました。
そこで、各階に1個ずつ洗面所や浴室及びダイニングキッチンなどを設置する様に見積もりをとったものの、これらは介護上は必要とは認めらず見積もりの4分の1しか認められなかった例
④:自動車の改造費は本当に必要か、無駄に高級仕様ではないか
自動車を改造したときにも家屋を改造したときと同じような問題が生じます。
つまり、自動車は障害の有無に関係なく多くの人が利用しているものなので、改造したときにはその改造が過度に高級なものになっていないかや、そもそも改造が必要なのかという問題です。
ちなみに、自動車については何年かに一度買い替えることが通常です(税金を計算するときに使うように国が定めた計算期間も新車ですら6年)。
海外にいくと日本と比べてかなり長期の20年や30年程度使い続けることもよくありますが、日本人にとっては買替えは10年保有か走行10万キロ程度というのが一つの目安になっています。
ですので、重度の後遺障害が残った被害者はその後の人生で何度か自動車を買い替えや改造をしていく必要があるのでそれについても損害額を計算する上で考慮する必要があります。
その計算方法としては以下の様になります。
1回あたりの改造費×(1+2台目のライプニッツ係数+3台目のライプニッツ係数・・・)
自動車を6年で買替えるとするとその改造費としては以下の様になります。(通常、裁判では耐用年数は8年〜10年として扱われることが多いですが、ここでは計算例を示すために税務上の耐用年数である6年を使用しています。)
700,000円×(1+0.7462+0.5568+0.4155+0.3100)=2,119,950円
小学生がいわゆる植物状態になり、将来の自動車購入費として8年毎に買い替えることを前提として、移動や通院治療のための障害者用車両を生存期間60年の間7回買い替える代金相当額合計672万8,750円が認められた例
⑤:改造費が認められる障害はどの程度からなのか
後遺障害が残るとどんな障害でも家屋や自動車の改造費が認められるかというとそういう訳でもありません。
一般的には介護が必要となる障害等級(1級や2級)の場合に改造費が認められることが多いです。
ところが場合によっては軽度な障害だったとしても生活をしていく上での利便性を重視し改造費が認められることもあります。
右膝関節に後遺障害のある女子高校生について、重度の後遺障害とは言えないものの自宅の和式トイレを洋式に改造した費用10万円などを認めた例
まとめ
様々な判例を元に、家屋・自動車の改造費が認められるかどうかの点について見てきましたが、実際に交通事故に遭遇し重度の後遺障害が残った場合は、多くの介護費が負担としてのしかかることになります。
予めどういった基準や判例があるかは知っておいた方がよいですね。
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