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交通事故に遭遇し、訴訟まで発展したものの和解が成立することは結構あります。
東京弁護士会から発刊されているLIBRAという雑誌の2013年8月号に「東京地裁書記官に訊く─ 交通部 編 ─」という特集が有るのですが、そこでは訴訟となった交通事故案件のうち約7割は和解で解決されると記載されています。
ところで、裁判になって判決が出た場合は損害賠償金には事故が起きてから支払がされるまでの遅延損害金がプラスされますが、裁判で和解となった場合の「遅延損害金」の扱いはどうなるのでしょうか??
和解の場合遅延損害金がでないのは普通?
もともと和解となった場合は遅延損害金をプラスしないのが裁判での通例でした。
ところが近年はその扱いが変わってきていて、和解のときでも遅延損害金を「調整金」あるいは「解決金」という名称でプラスするという方向性になっているようです。
つまり、最近では必ずという訳ではないけれども、「和解の場合にも遅延損害金見合いの金額が上乗せされる傾向にある」ということです。
但し、交通事故の発生日から5%の利息が付くと厳密に定められている遅延損害金と異なって、調整金の場合はどの程度の金額が上乗せされるかは厳密な決まりは無いようです。
この点、法律事務所大地(代表弁護士金子宰慶)の交通事故&医療事件のブログ記事では以下のように記載されています。
東京地裁の交通部の裁判官はある講演で、
”最近は和解においても、「解決金」や「調整金」の名目で遅延損害金の一部を上乗せすることが少なくありません。たとえば、事故から4年を経過した事件では、判決になれば、認容額に弁護士費用約10%と遅延損害金20%が加算されます。(中略)これを全額カットすることが原告・被告の衡平を失する場合があります。この場合には、争点の内容、立証の程度等を総合的に考慮した上で、元金に10%ないし15%くらいの上乗せをしております”
と述べています(2001年版赤い本p283)。
あるいは交通死亡事故の賠償金 – 加茂隆康法律事務所では以下のように記載されています。
判決ではなく、和解においては、必ずしも上記のようにはいきません。それでも東京地裁などでは、「調整金」という名目で、判決になれば算定されるであろう遅延損害金の約50%程度を、「調整金」として付加する傾向にあります。
東京地裁では遅延損害金の50%程度が認められるようです。
もちろん、全ての裁判上の和解案件で遅延損害金の50%が認められるわけではなく、「争点の内容・立証の程度等を総合的に勘案した上で」判断される物だと思いますが、和解の場合でも遅延損害金と同額とまではいかないまでも、ある程度の調整金が得られることは認識しておきましょう。
担当する弁護士さんによっては、調整金の交渉を放棄される人もいるようなので、被害者側がしっかりとモニタリングする必要が有りますね。
調整金の計算方法【例示】
以下、調整金として遅延損害金の50%が認められたと仮定して、どの程度の調整金が付与されるのか具体的に計算してみましょう。
例えば、裁判所が賠償金を2億円(事故から判決まで2年経過)と認定したとすると、判決であれば、遅延損害金は、
2億円×5%×2年=2000万円
となります。
これが和解の場合では、弁護士費用を差し引き(和解の場合は弁護士費用はつきません。
今回は便宜的に4%として計算)し、残りの金額について調整金を計算することになります。
(2億円−800万円)×5%×2年×50%=960万円
となり、この金額が和解での調整金となります。
ただし必ずこのように計算されるとは限らない(法律などで決まっている訳ではない)のであくまでも例として考えておいてください。
次のセクションでは、和解した時に生じるちょっと厄介な問題について見てみましょう。
損保会社が和解を先送りした場合はどうなる??
自動車事故に遭遇し、裁判をしていて和解案が裁判官から示された場合は次回期日までに和解案を受け入れるかどうかを決めないといけません。
原告・被告ともに承諾するとそこで和解成立になります。
両者すぐに和解案に承諾すれば問題ないのですが、被告側損保会社は色々な理由をつけて結論を先送りにすることがあります。
例えば、、決裁がなかなかおりないとか、人事異動があるから当分決裁ができないなど。。。。こういった感じで和解が損保会社の事情によって先送りにされる事が有ります。
しかしこれにより確実に和解日が先送りされることとなります。
このように、損保会社の事情で結論が先のばしになっていた場合「調整金」はどうなるのでしょうか?
これについては決まりという決まりはありません。
しかし、先送りされる理由が損保会社にしかない場合は、裁判官に調整金を延期された分についても考慮するようにお願いすべきですね。
上記の計算例で1ヶ月結論が先送りされた場合には、その調整金は
(2億円−800万円)×5%×1ヶ月÷12ヶ月×50%=40万円
賠償金額全体から見ると小さな金額ですが「40万円」はかなり大きい金額です。
働いて稼ぐとしたら、1ヶ月で手に入れられる人の方が少ないでしょう。
損保会社の勝手な都合で泣き寝入りするのはもったいないので、しっかりと主張して下さい。
まとめ
裁判上の和解をすると、判決までいった場合よりも受け取れる損害賠償金が減るという事は確かに否定はできませんが、調整金がつく傾向にあることから多少はその差は埋められています。
判決までいってしまうと、被害者としては時間的にも精神的にも相当なプレッシャーがかかるので、「判決までしっかり頑張っていくのか」・「納得のいく和解案があればそこで終了とするのか」を、しっかりと考えて裁判を進めていく事が必要なようですね。
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