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交通事故で損害賠償を考える上で「誰が」「誰に」請求するのかを確認しておくことは大切な事です。
「誰が」については「損害賠償の請求権は誰のもの?慰謝料は固有の取り決め有り」の記事で説明していますので参考にしてください。
ここでは「誰に」請求できるのかについて説明していきたいと思いますが、その前に「運行供用者責任」について説明します。
運行供用者責任
交通事故で損害を被った場合には、加害者の不法行為に対して損害賠償を請求する事になります。
この場合には民法第709条の一般不法行為責任を追求していくことになりますが、加害者側の過失の立証などが困難であること、また立証できたとしても不法行為責任は加害者本人のみに追求する事から、加害者に資力がなければ損害を補填することができない事などの問題点があります。
そこで、被害者の保護の観点から自動車損害賠償保障法(以下自賠責法)が昭和30年に制定され、そこには以下のように運行供用責任(自賠責法3条)が規定され損害賠償の責任の範囲を拡大し、被害者側の過失立証の負担を大幅に軽減しています。
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
この自賠責法3条の冒頭部分に規定されているのが運行供用者です。
ここが今回の記事のポイントになります。
「誰に損害賠償を請求できるのか」という事を言い換えると「誰が運行供用者なのか」という事になります。
運行供用者とは、車両を運転している者も当然含みますがそれ以外にも自動車の所有者や、自動車を支配しその自動車の使用から利益を得ている者が含まれます。
具体的には後で見ていきたいと思います。
運行供用者責任が問われるのは「他人の生命又は身体を害した時」です。
つまり人身事故の場合にのみ責任が問われる事になりますので、物損事故の場合には自賠責法の適用はなく民法によって損害賠償の請求をしていく事になります。
損害賠償の主な請求相手
損害賠償を請求できる相手かどうかの判断はまず運行供用者であるかどうかになります。
そしてその具体的な相手は個人か会社かの違いです。
ここでは大まかに分けたケースを紹介していきます。
その中でより詳細な部分については参考記事を載せておくので気になる方はそちらを参照してください。
それではケース別に損害賠償請求できる相手について見ていきましょう。
■マイカー運転者との事故の場合
交通事故の中でこのケースが一番多いと思いますがこの場合には基本は運転手に損害賠償を請求する事になります。
マイカー運転者は、加害車両の所有者なので自賠責法3条により運行供用責任者となります。
また事故運転者としても人身事故に関しては民法709条の不法行為責任を負いますが、この場合には法律の優先順位の法則(新法は旧法に優先する)に従って自賠責法が適用されます。
物損事故に関しては民法709条による不法行為責任を追うことになります。
車両を友人・知人に貸していた場合にはどうなるのかという問題がありますが、車を貸していた人も基本的には運行供用者責任を負うことになるので車の運転者と所有者が損害賠償請求相手となります。
参考「友達に車を貸したり、友達に名義貸しを行っていた場合の運行供用者責任」
その他にもファミリーカーや事故運転者が未成年であった場合など様々なケースが考えられ、損害賠償請求ができるのは事故運転者のみの場合や親にも請求する事が可能な場合もあります。
参考「ファミリーカーの原則と子供(未成年者)が事故した場合の親の責任」
■会社の自動車や業務中の人身事故の場合
事故の相手は例えばタクシーやトラックなどになります。
このような場合には運転手ではなく、運送会社などの法人が運行供用者になり自賠責法3条に基づく損害賠償請求の相手は法人となります。
運転手に対しては民法709条に基づく不法行為責任に対する損害賠償を請求することになります。
このように法人が関わってくるケースでは被害者としては資力の無い個人より資力のある法人に損害賠償を請求したほうが確実に損害を填補できるため運行供用者が誰なのかが重要になってきます。
タクシーやトラックなどの運送会社では話がわかりやすいのですが、運送会社以外の会社の車の場合には、従業員の勤務外・業務外での事故やマイカー通勤している従業員の事故などいろんなケースが考えられます。
こういった場合には会社の管理体制や業務との関連性によって法人に対して請求できるかどうかが変わってきます。
参考「従業員が会社の自動車を使用した場合の会社の運行供用者責任」
参考「マイカー通勤をしている従業員が起こした事故も会社の責任を追求できる?」
さらに話を拡げると下請け業社の起こした人身事故に対して元請け業社に賠償請求できるかといった話も考えられます。
結論としては元請業者があらゆる指示を出している場合などには運行供用者となり損害賠償を請求する事ができます。
これまでは人身事故の話でしたが、従業員が会社の車で物損事故を起こした場合には民法第715条第1項の使用者責任を会社が負うことになります。
つまり人身事故でも物損事故でも会社が責任を負うことになります。
しかし、会社と連帯して責任を負う立場の人がいます。
それは事業を監督する者(中小企業の社長や車両担当者など)です(民法第715条2項)。
被害者としては基本的に会社に対して損害賠償の請求をしていく事になりますが、会社が倒産してしまったような場合には監督する者に対しても損害賠償を請求できる事は覚えておいた方がいいでしょう。
中小企業の場合には倒産といった事は普通に有り得る話ですので。
社長の個人財産から求償出来ると考えて下さい。
損害賠償のその他の請求相手
その他、特殊なケースも一覧にしておきました。
請求相手 | 請求できる場合 | 根拠条文 |
---|---|---|
国や 地方公共団体 | 道路の接地や管理に欠陥 があった場合や公務員の 公務執行中の事故 | 国家賠償法1条、2条 その他の民法 |
被害者の雇い主 | 業務中や通勤中の事故 | 労働基準法 75条~88条 |
労災・健保などの 各種保険 | 各種保険の適用が認められてい る場合に請求することができる | 各種の保険法 |
まとめ
交通事故に遭った場合、状況に応じて運転者だけではなく、運行供用者、つまり会社や責任者または国や保険など様々な相手に損害賠償を請求できます。
そのため被害者としてはより確実に損害を補填してもらうことができる相手に損害賠償を求めていくことが重要になります。
ですから不運にも事故に遭ってしまった場合には加害者の免許証や保険証や車検証などを確認することはもちろん、私用だったのか業務中だったのかなど色んな情報を確認するようにしましょう。
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