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車同士の事故では、片方が無傷の事故は無く通常双方の車両が損傷します。
そのため、双方に車の修理費用が発生する事になりますが、その全額を相手から受け取れるわけでは有りません。
その理由は「過失割合とその後の過失相殺」にあります。
車同士の事故では、信号待ちで追突されるなど加害者側が100%の過失となるような事故以外では、双方に過失がある場合がほとんどです。
このように、互いに過失がある物損事故では、修理費用の支払い額(負担額)を過失割合によって決定する事になります。
分かりにくいと思うので、ポイントを以下にまとめてみました。
物損事故の修理費用負担額の計算ポイント
甲車と乙車が事故をした場合、互いの負担額を計算する方法は以下のようになります。
■甲の負担額
甲車の修理費用×甲の過失割合=甲の負担額
乙車の修理費用×甲の過失割合=甲の負担額
■乙の負担額
甲車の修理費用×乙の過失割合=乙の負担額
乙車の修理費用×乙の過失割合=乙の負担額
つまり、お互いの負担額を計算するには、双方の修理費用の合計に自分の過失割合を乗じる事によって求める事ができます。
(甲車の修理費用+乙車の修理費用)×甲の過失割合=甲の負担額
(甲車の修理費用+乙車の修理費用)×乙の過失割合=乙の負担額
負担額が判明すれば、今度は賠償金の支払い額を決定する事になります。
自分の車の修理費用を軸に考え、自分の負担額が多いか少ないかで金銭の授受関係が決定します。
つまり、自分の車の修理費用が自己負担額より上回っていたら相手から上回った分を受取り、下回っていたら相手に下回った分を支払う事になります。
よって、修理費用と負担額の差額分だけが支払う金額(受取る金額)になります。
■甲の修理費用>甲の負担額の場合
甲は乙から負担額を上回った分を受け取ります。
■甲の修理費用<甲の負担額の場合
甲は乙に負担額を下回った分を支払います。
甲の修理費用が50万円で、負担額が40万円なら10万円を乙から受け取り、負担額が70万円なら乙に20万円を支払う事になります。
それでは具体的に数字を使用して計算してみましょう。
車同士の物損事故の賠償金計算事例
■甲車の修理費用が60万円で過失割合が40%、乙車の修理費用が80万円で過失割合が60%の場合
甲の負担額
(60万円+80万円)×0.4=56万円
乙の負担額
(60万円+80万円)×0.6=84万円
■損害賠償の支払い額
甲の修理費用(60万円)>甲の負担額(56万円)なので、4万円を対物賠償として乙から受け取る事になります。
■車両保険を考慮した場合の計算
4万円は乙から、残りの56万円は車両保険から受取り、修理費用として使います。
車両保険に加入していなければ、56万円は全額自己負担です。
また、免責金額を設定している場合には、乙から受取る対物賠償保険がまず免責金額に充当されますので、免責金額が4万円以下なら、この場合も自己負担は発生しません。
しかし、4万円を超えて免責金額設定していると「設定免責金額-4万円」については、車両保険に加入していても、自己負担額が発生します。
■甲の修理費用が30万円で過失割合が30%、乙の修理費用が100万円で過失割合が70%の場合
■甲の負担額
(30万円+100万円)×0.3=39万円
■乙の負担額
(30万円+100万円)×0.7=91万円
損害賠償支払い額
甲の修理費用(30万円)<甲の負担額(39万円)なので、甲は乙に9万円を支払う事になります。
9万円は自分の対物保険から出ます。一方で、修理費用30万円部分に関しては車両保険から出ます。免責金額を設定していなければ、車両保険から全額出ますが、設定していればその分は自己負担となるのは、先ほどと同じ。
相手の車の修理費用が高額だと、過失割合が少ない交通事故の被害者であるにも関らず、賠償金を支払う立場になってしまう事も有ります。
被害者側からすると腑に落ちないかもしれませんが、計算構造上このようになっているため仕方有りません。
車同士の賠償金計算のまとめ
計算例だけを見ると、対物賠償保険の補償額を無制限にする必要は無いのではないかと思うかもしれません。
しかし、対物賠償保険の補償対象は車両だけでは有りません。賠償額が1億を超える可能性がある「店舗」や「車両積載物」も補償の対象です。なので、対物保険の補償額は絶対に無制限にしておくべきです。
専門家からのコメント
中村 傑 (Suguru Nakamura)
大垣共立銀行を退職後、東京海上日動火災保険に代理店研修生として入社。研修期間を経て、2015年に独立開業。2020年に株式会社として法人成り、現在に至る。家業が自動車販売業であり事業承継者でもある。車と保険の両方の業務を兼務しており、専門領域が広い事が強み。
コメント
実務上においてこの様なケースは、事故の片側の過失割合が相手よりも少なく、且つ、自車の損害が軽微(修理しなくても支障がない)な場合に多くあります。
現在の自動車保険は、対物事故により保険使用すると等級は3等級ダウンし事故有係数適用期間3年となります。早い話、3年間保険料が高くなります。
上記の様なケースの場合だと、損害額と過失割合から、自分が負担するべき金額と、保険使用した場合の保険料の差額を計算します。
[自分が負担するべき金額<保険法の値上がり分]の場合、ほとんどのお客様が実費でのご負担、示談を選択されます。
交通事故で保険会社が示談交渉をしたとしても、示談交渉は保険会社が提供するサービスの一種なので、最終のお支払いを実費で負担された場合は等級ダウンしません。
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