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自賠責保険の補償対象は「対人」部分だけという事は周知の事実だと思います。物損事故や自損事故などの補償を受けるためには、任意保険に加入する必要が有ります。
しかし、物損事故などは補償外だとしても、強制保険として「対人賠償保険」を謳っているなら、対人部分に関してだけは上限無しで補償してくれたらいいのになぁと思いませんか?
そうすれば、お金が無い人でも対人部分に関しては損害賠償金を支払えずに困る、という事態は避けられます。当然、お金が無い人でも自賠責保険料を負担するのは最低限の義務ですけどね。
また、自賠責の支払限度額に上限を設定している日本とは違って、世界の諸外国に目を向けてみると”強制保険に支払い限度額を設けていない”国も多数有ります。世界では上限額を撤廃して被害者保護を強烈に推し進めている国が有るにも関わらず、日本では未だに上限額が設定されている理由はどこに有るのでしょうか?
それには、意外な理由が隠されているようです。以下、詳しく見ていきましょう。
そもそも自賠責保険の支払限度額はいくら?
自賠責保険の支払限度額は以下のようになっています。
支払限度額 | |
---|---|
傷害の場合 | 120万円 |
後遺障害の場合 | 4,000万円 |
死亡の場合 | 3,000万円 |
実際に支払われる保険金は”慰謝料や逸失利益、治療費”などの合計額です。その合計額の限度額が上記の金額となります。各限度額の詳細については以下の記事を参考にして下さい。
なお、限度額を超過した金額は任意保険でカバーする事になります。
限度額が撤廃されないのは”民間の保険会社”に強制保険の引受をさせているから!?
日本の自賠責保険の引受会社は【民間の損保会社】です。これが実は、自賠責保険の支払限度額が撤廃されない意外な原因になっているそうです。
営利を追求するはずの民間企業が”強制保険である自賠責保険の引受”をしている事に疑問を感じませんか?自賠責保険には「ノーロス・ノープロフィットの原則」が適用されるので、民間の損保会社は自賠責保険の引受による利益を出したらダメなんですよ(*)。しかも、自賠責保険の引受は義務です。
* もちろん、引受に係る事務作業料などは支給されます。
民間企業なのに利益が出ないことに労力を使わなくてはならない・・・ココに民間損保会社の中でジレンマが生じます。
ここで、民間の損保会社における自動車保険業務の中の主要な稼ぎ頭を考えてみましょう。
自動車の任意保険で紹介している任意保険のうち、民間損保の稼ぎ頭は「対人賠償保険」(*)と「人身傷害補償保険」の2つだと言われています。
* ここでの対人賠償保険は自賠責保険の上積み部分の事です。
そのため、仮に対人賠償の強制保険である「自賠責保険」の支払限度額が無制限となってしまうと、民間の損保会社は稼ぎ頭を1つ失ってしまうことになります。任意保険における対人賠償保険の存在意義が失われるからです。
“自賠責の支払保険金は無制限であるべき!”という声が有る中で、1990年台以降に保険金支払限度額が増額されていないのは、民間の損保会社の抵抗があるから・・・と考えても何らおかしくは有りません。
もし、本当に民間の損保会社が保険金支払金額の上限撤廃に消極的であることが原因ならば、忌忌しき問題です。
もちろん「自賠責保険で支払われる保険金額」で書いているように、国民一人当たりの所得も1990年台以降伸びてないことも大きな理由の一つです。
しかし「私企業にとって利益追求を行うことは当然であり、合理的利潤を上げる事を認めないのであれば私企業を利用すべきで無かった」という批判が有るのも事実です。
諸外国では自賠責保険の支払限度額が無い国も有る!
先程も書きましたが、日本の自賠責保険の支払限度額は以下のようになっています。
- 死亡:3,000万円
- 後遺障害:4,000万円
- 傷害:120万円
一方、国際保険法会議が行ったアンケートによれば、1994年の時点で強制保険に支払限度額が無い国は39ヶ国存在すると発表されています。これら以外にも、支払限度額は有るものの、その上限が非常に高い為に支払限度額は無いに等しいと認められる国(*)もいくつか存在しています。
* たとえば、スウェーデンは3,600万USドル、デンマークでは1,057USドルが支払限度額として設定されています。いずれも日本円にして10億円以上を超えており、普通に考えれば賠償額が支払限度額を超えることは無いと思われます(参考:自動車保険読本P41)。
【参考】アメリカの制度は驚くことばかり!
世界には無制限に保険金を支払ってくれる国が有ります。従って、それに比べると日本の強制保険制度は心もとないな・・・と考える人が多いでしょう。
しかし、世界最大の経済大国であり世界で最も自動車保有台数が多いアメリカ(*)は、実は日本よりも交通事故被害者の補償制度が整っていません。
* 2014年末時点で、全米では2億5千万台以上保有されているそうです(参考:日本自動車工業会)。
州によっても変わってくるのですが、大体一人当たりの補償金額は15,000ドル~50,000ドル、1事故全体で見ても3万ドル~5万ドルというのが現状のようです(参考:自動車保険読本P46)。果たして、これで被害者保護が出来るのでしょうか?
アメリカは”小さな政府”を標榜していますので、皆保険制度を謳っている日本とは異なり、社会保険は全く充実していません。しかし、それにしてもこの補償金額の少なさは・・・という感じですよね。
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