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交通事故(自動車事故)で被害者が死亡した場合の損害額(損害賠償金の額)の計算基礎は以下の3つです。
- ①逸失利益
- ②慰謝料
- ③葬儀費
これら3つの計算基礎を元に金額を計算し、合計したものが被害者遺族が受け取る事ができる保険金の総額となります。ただし、自賠責保険の支払保険金の限度額は、死亡時の場合で3,000万円です。限度額の3,000万円を超えた部分については”加害者の任意保険”から支払われます。(参考:自賠責保険で支払われる保険金額の上限)
この記事では“自賠責保険の基準に則った計算例”を紹介していきます。ただし、交通事故の損害額の算定基準は自賠責基準だけでなく、その他にも任意保険の基準や弁護士会基準もあります(他の基準でも3つの計算基礎は同じです)。
自賠責基準以外の支払基準については、下記記事を参照して下さい。(損害額の算定額は「弁護士会基準>任意保険の基準>自賠責の基準」の順で大きいです。自賠責基準は最も算定額が小さくなる。)
それでは、自賠責基準における各計算基礎の算定方法について見ていきましょう。
【自賠責保険の支払基準】死亡時の逸失利益の計算方法
逸失利益とは、被害者が、その交通事故で死亡しなければ、今後得られたであろう所得の金額を表すものです。
基本的には、計算式に則って画一的に計算されますが、裁判などでは被害者の特殊性等に応じて柔軟に金額が計算されるようです。
計算式は以下のようになっています。
逸失利益=(年間収入額ー生活費)×死亡した年齢の就労可能年数のライプニッツ係数
計算式のそれぞれの項目について以下で見ていきますね。
年間収入額
例えば、サラリーマンの方であれば賞与等の臨時給与も含み、個人事業主であれば事業から得られた収入から必要経費を差し引きます。
個々人の職業に応じて、年間収入額の算定方法は異なりますので、詳しく知りたい方は下記記事から該当するものをご参照下さい。
生活費
死亡したのに年間収入額から生活費を差し引くの?と思う人もいるかもしれませんが、この計算式は交通事故に遭わなかったと仮定して、その後得られたであろう利益額を計算するものですから、生活費は差し引かれます。
被害者の方が生きていたら、その分可処分所得は少なくなるので生活費も引いておきましょうね。というイメージです。
ただ、”死亡した被害者の生活費”を具体的に算定するのも困難なので、通常は「生活費控除率」を乗じることにより算定されます。
この生活費控除率は、被害者に被扶養者がいる場合は35%、被扶養者がいない場合は50%となっています。なお、弁護士基準では30%~50%で計算されます。詳細については下記記事をご覧ください。
ライプニッツ係数
逸失利益とは、被害者が生きていれば得られたであろう”利益”の事を指します。(裏を返せば、残された家族にとっては損害とも言えます。)
交通事故で被害者が死亡した場合、この”利益”の金額を現時点で一括で支払うことになります。しかし、それは本来、被害者の方が長年にわたり獲得していく利益であり、そこには時間的価値の相違があります。
つまり、将来獲得できたであろう利益を現在一括で支払う為には、将来の利益を現在価値に置き換える必要性がでてくるわけです。
そして、現在価値に戻す計算方式の事を”ライプニッツ方式”と呼び、利率は民法404条で規定されている年5%を使用します。(計算は複利で行われます)。
とはいえ、いちいちライプニッツ方式を使って計算するのも面倒なので、ライプニッツ係数と呼ばれる係数を利用することで計算を簡略化します。
第404条
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。引用元: 民法-e-Gov法令データ提供システム
注:民法改正により法定利率が5%から3%に引き下げられる予定です。施行日はまだ未定です。詳細は下記記事を御覧ください。 ⇒就労可能年数とライプニッツ係数 | 国土交通省
民法改正で法定利率が5%⇒3%に!逸失利益の金額が大幅に増えます
年齢等に応じたライプニッツ係数に関しては、下記国土交通省のPDFファイルを参照して下さい。
⇒ライプニッツ係数とは~中間利息控除算定時の基準係数~(当サイトの記事です)
【自賠責保険の支払基準】慰謝料の計算方法
慰謝料の金額・計算方法は、算定対象者毎に以下のようになっています。
慰謝料算定者 | 金額 |
---|---|
本人への慰謝料 | 350万円 |
遺族への慰謝料 * | 550万円(請求権者が1人の場合) 650万円(請求権者が1人の場合) 750万円(請求権者が1人の場合) |
なお、請求権者には以下のものが該当します。
- 被害者の父母
- 配偶者
- 子供
- 【補足】養父母、内縁の配偶者・胎児や養子、認知した子供も請求権者に該当
要するに、被害者と実質的に家族関係があった場合には慰謝料の請求を認めてくれるということです。この辺りは遺族への配慮がしっかりとなされていると思います。
【自賠責保険の支払基準】葬儀費の計算方法
葬儀費は60万円です。60万円を明らかに超える場合には、証拠証憑を見せることで100万円以内の妥当な金額までなら認められます。
以下、葬儀費に含まれるもの・含まれないものの例示です。
葬儀費に含まれるもの | 葬儀費に含まれないもの |
---|---|
通夜・告別式などの葬儀にかかる費用や初七日追善供養・祭壇・仏具・火葬・埋葬・石塔または墓石に要する費用 | 墓地・永代供養・年忌供養・香典返し等 |
自賠責基準における「死亡」時の損害額算定例
計算の前提は以下のとおりです。
- 被害者・・・35歳男性サラリーマン
- 遺族・・・妻1人、子1人
- 被害者の月額収入・・・421,300円(35歳男性の平均給与:参考全年齢給与月額と年齢別平均給与額 | 金融庁)
前述したように、自賠責基準での損害額(支払保険金や慰謝料など)の算定は「①逸失利益②慰謝料③葬儀費」の3つの計算基礎からなります。以下、1つずつ見ていきます。
逸失利益の計算例
逸失利益=(年間収入額ー生活費)×死亡した年齢の就労可能年数のライプニッツ係数
計算式
421,300円×12ヶ月×(1-0.35)×15.803=51,931万円(1万円以下端数切り上げ)
解説
35歳男性の平均月額給与”421,300円”に12ヶ月を乗ずることで年間収入額を算定します。もちろん、死亡した方の収入が平均給与月額よりも多い事が証明できる場合には、実際の収入額により計算されます。
(1-0.35)は生活費の控除ですね。被扶養者がいる場合には控除割合は35%、被扶養者がいない場合には50%で計算されます。
15.083は35歳の場合のライプニッツ係数になります。
慰謝料の計算例
算定対象者 | 金額 |
---|---|
本人慰謝料 | 350万円 |
遺族への慰謝料 | 650万円(請求権者が2人なので) |
被扶養者ありの加算金 | 200万円 |
以上より、合計1,200万円が慰謝料の金額となります。
葬儀費の計算例
60万円
これは説明不要ですね。
合計の計算例
51,931万円+12,000万円+60万円=63,991万円
計算例の前提の被害者が死亡した場合、自賠責基準では63,991万円が損害額として算定されます。ただし、自賠責の対人補償金額は最大3,000万円なので、残りの33,991万円に関しては任意保険から支払われます。
反対に言えば、加害者が任意保険に加入していない場合には、3,000万円を超える損害額が計算されたとしても”3,000万円分”しか支払われないことになります。
加害者が保険未加入の場合に備えて、自衛できるところは自衛しておきましょう(参考:加害者が任意保険未加入/自賠責保険未加入の場合に自分を守るためにどんな対策をすればいいの?)
自賠責基準の損害額の算定方法に関しては、国土交通省の資料も参照して下さい。
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