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交通事故の加害者になってしまうと、一般的な不法行為責任を規定した民法709条の過失責任ではなく、もっと重い「条件付無過失責任」というものと戦うことになります。
この記事では「条件付無過失責任」がどのようなものか紹介していきます。
交通事故加害者の条件付無過失責任とは
まず、民法の不法行為責任を規定している条文を見てみましょう。
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(引用・出典:ウィキペディア(Wikipedia)民法「不法行為」)
この条文には、損害賠償責任を追うべき者に故意又は過失があった場合には賠償責任を負わなければならない、ということが書かれています。
交通事故によって他人に損害を与える行為も不法行為の1つなので、加害者には被害者に対する損害賠償責任が発生します。
故意の場合に責任を追うのは当然の事だと感覚的にも思えますね。
しかし、民法では”過失”、つまり絶対に払っておくべき注意を払っていれば、賠償責任を負わなくても良い事になります。
しかし、日本の法律には「特別法優先の原則」という考え方が有り、交通事故に関しては「自動車損害賠償保障法」が規定されているので、この法律が民法に優先して適用される事になります。
そして、自動車損害賠償保障法の第3条には民法709条で規定されている過失責任ではなく「条件付無過失責任」が採用されています。
条文は以下の通りです。
第3条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
(引用・出典:ウィキペディア(Wikipedia)自動車損害賠償保障法)
ただし書き以前を見て欲しいのですが、民法709条のように【故意又は過失によって】という文言が有りません。
これだけを見ると、自動車を運転していた人はどんな場合でも(例えば被害者に過失があろうとも)、絶対に損害賠償の責任を追うことになります。
つまり【無過失責任】となります。
ただ、自賠法の第3条には但し書きが有ります。
そこには3つの要件が規定されており、この3つを加害者側が立証することが出来れば、加害者は損害賠償の責任を負うことを免れます。
このような条件が付いていることから、交通事故の加害者は「条件付無過失責任」を負うことになるわけですね。
それでは、3つの要件について以下で詳しく見て行きましょう。
①自己及び運転者が車の運行に関して注意を怠らなかったこと
自分が運転者と仮定すると、一切の過失が自分には無かったことを証明しなければなりません。
一旦停止違反やスピード違反などはもってのほかです。
運行者として、道交法等で定められている注意義務を全て順守していなければなりません。
②被害者又は運転者以外の第3者に故意又は過失があったこと
例えば、被害者が歩行者であれば、赤信号横断や横断歩道以外の横断など事故に合う可能性が高くなるような行為、つまり被害者側の過失を証明しなければなりません。
補足:裁判になると、赤信号横断の被害者側の過失認定は60%~80%程度認められるので、加害者側は必死に過失相殺を主張するのが通例です。
③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害が無かったこと
これは当然、車検を受けた時に「ここを直した方がいいですよ~」と言われているのに、修理していなかった場合でもOUTになると思われます。
(程度の大小での判断は有ると思いますが)
当然、車検を受けてなかったらOUTです。
車の素人が、構造上の欠陥や機能の障害が無かったことを立証するのは非常に難しいです。
以上の三要件を満たせば”加害者側の責任は軽くなる”と言えますが、立証するのは難しいのが現実のようです。
物損事故では民法における過失責任を適用
ここまで紹介した”交通事故における加害者の条件付無過失責任”が適用されるのは「人身事故」の場合のみです。
というのも、自動車損害賠償保障法は以下のように人体に対する損害のみしか規定していないからです。
その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。
(自賠責法第3条抜粋)
つまり、物損事故については自賠責法ではなく、民法が適用される事になります。
補足人身事故においても物損に関しては民法が適用されます。
そのため、物損事故の加害者は条件付無過失責任ではなく、民法における過失責任を負うことになります。
出典・参考HP:電子政府の総合窓口 e-gov
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