この記事を読むのに必要な時間は約 9 分です。
特約の数が多くなったや保険会社の不払問題の話をする上で「保険の自由化」前後の話は切っても切れない関係にあります。
どういうことかというと保険の自由化以後は自由化前と比べて日本の自動車保険業界の経営が大きく変わったからです。
ここでは保険の自由化前後の自動車保険業界の経営の変移に触れつつ、特約と不払いの関係について見ていきたいと思います。
[myphp file=’kiji-top’]
保険の自由化で競争が激化
保険の自由化前の自動車保険の商品は至ってシンプルに構成されていて、どの保険会社も商品の名称は同じでした。
- PAP(スペシャル・オートモービル・ポリシー)-対人・対物・搭乗者障害保険等がセット
- SAP(パッケージ・オートモービル・ポリシー)-PAPに車両保険がセット
- BAP(ベーシック・オートモービル・ポリシー)-保険を自由にチョイスできる商品
さらに、どの自動車保険会社も保険料金の設定の仕方は自動車保険料率算定会(現・損害保険料率算出機構)の「タリフ」と呼ばれる料率表の使用が義務化されていたので、保険内容が同一ならどこで契約しても同じ料金だったのです。
料率表を表す業界用語です。
保険業界に限らず鉄道の運賃表や宿泊施設の宿泊料金表などの事を指します。
このような状況では他社との経営競争など起こるはずもなく業界全体がぬるま湯に浸かった状態でした。
ところが保険の自由化が始まると自動車保険業界の環境は一変します。主だった変化は以下の通りです。
①外資系の参入による競争激化
アメリカンホームダイレクトをはじめとした保険料金が安い外資系の参入つまり通販型自動車保険の参入により保険料金の値下げを行わざるを得なくなります。
代理店販売を行っていた日本の自動車保険は今までの各社横並びのぬるま湯状態から慌てて飛び出し外資系に顧客を持っていかれまいと保険料金の値下げに舵を切っていたのです。
通販型の自動車保険がどれだけ安いか下のリンク先から体験してみてください。
⇒見積もりサイト若しくはTOPページ
②自算会の料率表の使用義務が廃止される
もう一つの主な変化として「タリフ」と呼ばれる料率表が使用義務が廃止され、参考純率というものが示され各社は参考純率を基礎としつつ自由に保険料を設定することができるようになりました。
この変化も保険料の値下げ競争を激化させる一因となることは言うまでもありません。
純率といいのは保険金額に占める保険料金の割合の事で、各保険会社から保険料率に関するデータを損害保険料率算出機構が集め算出したものが参考純率です。
この参考純率は自由化前のような使用義務はないのであくまで各保険会社が保険料を算出する際の参考となるものです。
③リストラと業界再編
保険の自由化以後、経営が悪化した結果損保会社はリストラや合併を余儀なくされていきます。
給料のカットが行われ正社員の数を減らし給料の安い契約社員をドンドン雇うようになっていきました。
当然契約社員は保険のプロではなく知識も乏しく保険に関する教育が必要になってきますが、経営が苦しくなってしまった状況で時間も費用も掛ける事ができなかったのです。
つまり保険の事がわからない人が保険を売る事になってしまいます。
こうなるとトラブルが発生するのも容易に想像ができます。
また会社内の環境の変化だけで収まらず、損保会社同士の合併も相次ぎました。
保険の自由化以後の主な損保会社の合併は以下の通りです。
- 大東京火災と千代田火災の合併⇒あいおい損保
- 興亜損保と日本火災と太陽火災の合併⇒日本興亜損保
- 同和火災とニッセイ損保の合併⇒ニッセイ同和損保
- 住友海上と三井海上の合併⇒三井住友海上
- 東京海上と日動火災の合併⇒東京海上日動火災
- 第一ライフ損保と安田火災と日産火災と大成火災の合併⇒損保ジャパン 等
これだけの損保会社の合併が約4年の間に次々と行われていきました。
合併は大きな変化を伴い、さらに保険の自由化の波も伴って人・システムが環境の変化に追いつけずにトラブルの発生の原因となってしまったのです。
自由化の結果外資系に顧客を取られ、保険料金の値下げをした事によって当然保険料収入は減少します。
そこで自動車保険各社は減少した保険料収入の確保に躍起になっていくのです。
保険料収入の確保
減少した保険料収入を補填する方法として考えられたのが特約です。
今まで対人賠償保険や対物賠償保険などの基本補償しか商品に組み込んでこなかったので、表向きには「色んな場面で補償されますよ」とお得な感じを出して保険料収入を増やす事にしたのです。
■特約の補償例■
- 事故によって入院した際のペットの世話の費用を支払う特約
- 自動車に積んである物の事故による損傷を補償する特約
- 人身事故に遭った時の目撃情報を収集する費用を補償する特約 等
そこまで細かい補償を特約で付ける必要があるのかと思いますよね?
このように様々な特約を開発していった結果、特約大量発生という事に繋がって行くのです。
特約が大量に有ることは見方によっては契約者のニーズに合った保険を組み立てる事ができると言えますが、特約が20~30個も付帯された保険内容を契約者が全て理解することは容易ではありません。
その結果どのような場面で補償されるのかわからずに保険金請求ができないケースが発生してもおかしくないのです。
また特約の把握ができないといった問題点は契約者だけではなかったのです。
不払いの発生
特約の大量発生により何が起こったかというと保険金の不払いです。
前述したとおり補償が細かくなり複雑化した為に契約者も特約を扱う自動車保険会社も特約の変化に追いつけなくなってしまいました。
自由化から約10年の間で自動車保険会社は大きな変化を余儀なくされた事は先に述べましたが、この大きな変化にシステムの構築・従業員の教育が疎かになってしまったというのが保険金不払いの原因と考えられます。
その結果、自動車保険会社は特約を整理してその数を減らしていく事になります。
例えば、東京海上日動では128個あった特約を75個まで減らす結果になりました。
まとめ
保険金の支払いの請求の際には保険会社に任せっきりではこういった保険金の不払いの被害を受けるかもしれないと言うことを念頭に置いておかなくてはいけません。
ですので契約者は契約の際に確認したとは思いますが、自分の自動車保険の保険証券を今一度見て契約内容を再確認する事が大切になってくると思います。
関連記事をチェックする