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交通事故に限った話では有りませんが、刑事手続きにおいて、「被害者の権利よりも加害者の権利の方が尊重されている」と、憤りを感じた事が有る人はいるのではないでしょうか?
そもそも、従来の裁判の図式は、犯罪を裁く側の「国家権力」対裁かれる側の「被告人(加害者)」となっていて、被害者が権利を主張出来る余地はほとんど有りませんでした。
また、加害者は公選で弁護士を付けて、刑事裁判の中で、自分の権利を主張出来るわけですから、被害者にとってはかなり不公平な状況だったのです。
そこで、平成12年に、その不公平さを無くして、被害者又は遺族の権利を保護する為の法律として「犯罪被害者保護法」が制定されました。
犯罪被害者保護法の成立に併せて、刑事訴訟法と検察審査会法の一部も改正されています。
今回は、交通事故の被害者と遺族の権利を保護する法律を紹介したいと思います。
交通事故の被害者と遺族の権利を保護する法律
交通事故の「被害者」と「遺族」の権利を保護する法律は、さきほど紹介した以下の3つの法律です。
- 犯罪被害者保護法
- 刑事訴訟法
- 検察審査会法
刑事訴訟法と検察審査会法の一部に、被害者と遺族の権利を保護するための法律が有ります。
これらの法律自体が被害者と遺族を保護する為の法律では有りません。
それでは、3つの法律に定められている「被害者と遺族の権利を保護する制度」について見ていきましょう。
傍聴についての配慮
被害者や遺族・法定代理人が、公判の傍聴を出来るように配慮する義務が定められました(被害者保護法第2条)。
傍聴するには、被害者等が裁判所へ傍聴の申請を行う必要が有ります。
あくまで「配慮」とされているので、必ず申請者全員が傍聴出来るわけでは有りません。
世間が注目する裁判では、マスコミ関係者や事件に関係無い一般の人も傍聴を希望するので、傍聴席の抽選が行われます。
従来の法律では、被害者等であっても優先されるわけではなく、一般の人と一緒に抽選に参加しなければなりませんでした。
一番裁判に関心の有る被害者等が傍聴出来ないのは、おかしな話ですよね。
そこで、被害者等が傍聴を希望すれば、傍聴出来るように裁判官が配慮するように法定しています。
被害者等の意見陳述制度
被害者等は、交通事故に対する「意見」や「気持ち」を、裁判で述べる事が出来るようになりました(刑事訴訟法第292条のニ)。
意見を述べる権利の確保ですね。
意見陳述をしたい場合には、予め検察官に申し出を行う必要が有ります。
公判記録の閲覧・謄写
以前は、まだ判決が確定していない刑事裁判中案件の「公判記録の閲覧・謄写」は認められていませんでした。
しかし、損害賠償手続きに公判記録が必要な場合も有ります。
そこで、正当な理由が有る場合には、裁判中でも公判記録を閲覧・謄写する権利が認められました(犯罪被害者保護法第3条)。
不起訴処分に対しての審査申立権者の拡大
検察官の不起訴処分に対して納得できない場合に、遺族も検察審査会への審査の申立を行う事が出来るようになりました(検察審査会第2条2項、第30条)。
検察審査会は検察官の不起訴処分の妥当性の審査を行います。
審査の結果、「起訴相当」又は「不起訴不当」と判断されれば、検察官は再度起訴するかどうか検討します。
検討してもなお不起訴処分と判断する時も有り、この場合には最初の審査で「不起訴不当」とされていれば、結論は「不起訴」で確定します。
「起訴相当」とされていれば、再度起訴すべきかどうか審査(起訴議決)を行います。
ここで「起訴すべきでない」と判断されれば、結論は不起訴で確定。
「起訴すべき」と判断されれば、「強制起訴」となります。
従来は、検察審査会への申立は、被害者本人又は告訴・告発人などにしか認められていませんでした。
和解成立の公判調書への記載申立
被害者と加害者が、裁判外で和解(示談)が成立した場合には、その旨を審理している裁判所に申し立てれば、和解内容を公判調書に記載する事が出来ます(犯罪被害者保護法第4条等)。
公判調書に記載する事によって、民事裁判で和解した事と同様の効力が生まれます。
そのため、加害者側が和解内容を履行しなかった場合に、民事裁判を起こす必要なく、強制執行の手続きを行う事が出来ます。
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